INTERPRETATION

第39回 Brexit 特集 その4 Remainersの意見は?

グリーン裕美

ビジネス翻訳・通訳で役立つ表現を学ぼう!

皆さん、こんにちは。4月に入り、イギリスにもやっと春の陽気が訪れました! 日本在住の方は、お花見を楽しまれたことでしょう。

第36回からBrexit(イギリスのEU離脱)問題を取り上げています。前回は「Brexiteersが不満に思う理由」を4項目取り上げたので、今回はそれぞれに対するRemainers(残留派)の意見を紹介します。

1)EUの法律・規則は役に立っている

EU加盟国で統一された規則に従っているため全体的な官僚手続きが減り、企業はその恩恵を受けている。官僚手続きを減らすにはBetter regulation(規制の効率化)に向けて働きかけることは可能。またEU市民としてEUの規制下にある工業製品・食品などを安心して利用・消費できる。

2)分担金の負担額に対する見返りは十分にある

「十分な見返りはある」と証明する研究結果がいくつもある。例えば、London School of Economics (LSE)の調査結果によると、EU自由貿易協定のおかげでイギリスの物価が低く抑えられており、各家庭あたり年間200ポンド、イギリス全体では53億ポンドの節約につながっているという。またCBI(英国産業連盟)によると、EU加盟国として低価格によるメリットだけでなく貿易・雇用・投資が増えるため各家庭あたり年間3000ポンドもの恩恵を受けているとのこと。ちなみにEUへの分担金は各家庭あたり年間340ポンドなので、金銭的に十分な恩恵を受けている。

3)EUからの移民は財政に貢献している

Brexiteers(離脱派)は、EU移民が社会保障制度を悪用している、医療・教育制度を圧迫している、低賃金労働を供給するためにイギリス人が失業している、などという理由をあげ、EU移民に反対している。しかし複数の調査結果によると、EU移民は実のところnet fiscal contributors、つまり全体的には社会保障の受給額よりも納税額のほうが多いとのこと。したがって、EUからの移民は社会保障を受けるためではなく働くためにイギリスに来ているので、国に貢献している。また現在EU諸国で暮らしている200万人以上のイギリス人がBrexitにより強制送還される可能性もあり。「うっとうしい天気が続くイギリスから老後は太陽がさんさんと輝くスペインへ」と夢を膨らませて貯金しているイギリス人にとってEU離脱は夢をぶち壊すようなもの。

またイギリスはシェンゲン圏には入っていないので、出入国の際には必ず国境検査を通る必要があり、難民やテロリストの入国は制限されている。

4)欧州人権裁判所(the European Court of Human Rights: ECHR)はEUの管轄外

前回も触れた通り、欧州人権裁判所をを設置している欧州評議会(Council of Europe)はEUより大きい機関なので、EUが欧州人権条約に順守していたとしても、イギリスがEUを出たからと言って欧州人権裁判所の管轄から出ることにはならない。

以上、前回取り上げた項目に対し、Remainersの主張を紹介しました。本コラムでは4点に絞って説明しましたが、他の多くのトピックについても両者の意見が対立しています。

Brexitを考える上で大きな問題は、もしイギリスがEUを離脱することになった場合、離脱後のイギリスがどのような立場に置かれるのかまったく分からない、ということです。もしノルウェーのようにEUには加盟しないけれども単一市場には残ると決めた場合、分担金の支払いは続く(多少の減額はあり)し、ヒト・モノの自由な移動が保証されているので移民問題もそのまま残ります。EU規則に従う必要もあります。けれども単一市場に残るかどうかは今回の国民投票(EU referendum)では問われません。また日本や米国を含む世界の国々と個別に行う貿易交渉で、イギリスがこれまでよりも良い条件を獲得できるかどうかも不明です。スコットランドは2年前に住民投票でUKに残ると決めたところですが、UK離脱問題が再浮上する可能性も既に示唆されています。

一方、肝心のEUもイギリスが抜けるとガタガタと崩れてしまう可能性も低くありません。イギリスがEUを出て、それなりにうまくいけば後に続こうとする国が出てくる可能性もあり、EU存続のためにはイギリスが残ることが必須とも言えるでしょう。

というわけで、非常に不確定要素が多いので、世論調査の結果では拮抗しているようですが、大半の投票者は「不確実性」を回避して、Remain(残留)に投票するというのが私の予測です。あまり心配せずに見守りましょう。

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記事を書いた人

グリーン裕美

外大英米語学科卒。日本で英語講師をした後、結婚を機に1997年渡英。
英国では、フリーランス翻訳・通訳、教育に従事。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
2018年ITI通訳認定試験で最優秀賞を受賞。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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