INTERPRETATION

第23回 threatといえば何が思い浮かびますか?

グリーン裕美

ビジネス翻訳・通訳で役立つ表現を学ぼう!

皆さん、こんにちは。年末が近づき慌ただしい日々の中、新年に掲げた抱負(New Year’s Resolution)にこだわっている人はどのくらいいるのでしょうか。私は今年も懲りずにダイエット目標をかかげ、今年こそは必ず達成しようと目標値をたったの2kg減と大幅に下げたにもかかわらず、まったく減っていないので(苦笑)、今週は運動に加え、ダイエット・アプリでカロリー計算をまめに行ってがんばっていたところ、12月11日のBBCのトップニュースでこんな報道がありました。

Obesity ‘biggest threat to women’s health’ in England

Obesity is the biggest threat to women’s health and the health of future generations, warns England’s chief medical officer Dame Sally Davies.

(続きはこちらでhttp://www.bbc.co.uk/news/health-35061167

「サリー・デイビス英国主席医務官によると、肥満は、女性の健康と将来の世代の健康にとって最大の脅威」であり、「食品業界が自主的に健康食を促進できなければ砂糖税(Sugar Tax)導入も避けられない」とのこと。

一方、タブロイド紙デイリー・メールはもっと衝撃的な見出しを付けています。

Obesity in women ‘as dangerous as terror threat’: Extraordinary claim by health chief as she uses speech to demand condition is added to list of emergency threats

(続きはこちらで http://www.dailymail.co.uk/news/article-3355256/Obesity-women-dangerous-terror-threat-Extraordinary-claim-health-chief-uses-speech-demand-condition-added-list-public-health-threats.html

「女性の肥満はテロの脅威と匹敵するほど危険」であり、国の「緊急の脅威リストに加えるべき」とのこと。暴飲暴食シーズンを前に警鐘を鳴らそうとしているのかもしれませんが、この時期に肥満とテロを同じように扱う表現は受け入れがたく感じる人も多く、現にBBCのスタジオに招待された超肥満の中年女性は「None of us wake up in the morning, look at ourselves in the mirror and say “Glad I’m still fat!” We have all tried(朝起きたときに鏡を見て『今日も太っていて良かった!』と喜ぶ肥満女性なんていない。皆、努力はしたけどやせられないのよ)」と怒りを爆発させていました。

ところで、threat(脅威)という言葉は、英エコノミスト誌最新号(2015年12月12日号)の特集記事でも使われています。

Playing with fear

In America and Europe, right-wing populist politicians are on the march. The threat is real

「欧米では、右翼のポピュリスト(大衆主義)の政治家が台頭していて、その脅威は現実的だ」とのこと。

ここでのthreat(脅威)とは、テロ行為でも中年女性の肥満でもなく、米国のドナルド・トランプ氏が数々の暴言にもかかわらず人気を博していることや、先週末にフランスの地方選でマリーヌ・ルペン氏率いる極右政党FN大躍進したこと、そして他の欧米地域でも右派の大衆主義がかつてないほどの支持を得ていることを指していて、それが「西洋社会への脅威」だと警告しています。

一方、当のトランプ氏やルペン氏は、イスラム教徒や移民がthreatだからと、極端な移民対策を打ち出していて、それが人気を呼ぶ理由の一つでもあります。

threatと聞くと、反射的に「脅威」と訳しますが、いったい誰にとって何が脅威なのかは話し手と話題によって大きく異なります。自分の考えや先入観に左右されず、話し手の立場や背景を理解して、その意図を忠実に訳すようにしなければならない、という通訳基本ルールを思い出させてくれた用語でした。

では、「イギリスへの脅威」と後ろ指をさされないよう、ダイエットを続けます。

追伸:本コラムでは、皆さまのご意見・ご要望にもお応えできたらと思っています。これまで取り上げた内容の続編も含め、リクエスト・ご感想をhi-career@ten-nine.co.jpにてお待ちしています。

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記事を書いた人

グリーン裕美

外大英米語学科卒。日本で英語講師をした後、結婚を機に1997年渡英。
英国では、フリーランス翻訳・通訳、教育に従事。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
2018年ITI通訳認定試験で最優秀賞を受賞。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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