INTERPRETATION

第125回 「春闘」関連の頻出語彙を英訳しよう

グリーン裕美

ビジネス翻訳・通訳で役立つ表現を学ぼう!

毎年この時期になると「春闘」という言葉をあちこちで聞くようになります。通訳の現場でも頻出なので、今回は「春闘」関連の英語記事から実際に使われている表現を取り上げます。日本の話題ですが、あえて英エコノミスト誌が使っている表現を知ることでより自然な表現を学ぶ機会となれば幸いです。

今回取り上げる記事は2018年2月1日付のThe Japanese government’s drive to lift wages is gathering steamです。

1.まずは「春闘」を英語で言うと?

このような日本独特の概念を訳すときは、聞き手の知識レベルを推し量って適訳を探すといいと思います。日本の労使事情に詳しい人なら単にshuntoで通じることでしょう。でも一般の人には定訳のspring offensiveと言っても通じにくいので説明を加えるといいでしょう。同記事では[this year’s] wage negotiation–an annual rite between employers and unions known as the shunto, or spring offensive–と書かれています。

もう少し簡潔にannual wage negotiations between management and labour unionsなどとも言えます。

2.「賃金」を英訳すると?

一般的にはsalary、pay、wageが使われますが、労使交渉の文脈ではふつうwageが使われます。salaryはふつう事務系で一定期間(月給、年棒)に支払われる報酬を指すのに対し、wageは時給で働く肉体労働者に支払われるイメージです。同記事では、春闘で対象となる賃金 (wages) の説明として以下のように記述しています。

[This figure includes] regular wages, which are made up of “base pay” and a seniority-based element that is raised automatically

賃金体系が欧米とは異なるために説明が加わっています。

3.「ベア」を英訳すると?

これは「ベースアップ」の略ですが、base-upでは通じません。pay-scale increaseやincrease in basic monthly payなどと訳されることもありますが、同記事ではそのような表現は使われていません。ただし、同じような文脈でraise wagesや increase the base wageのような動詞表現が使われています。

ちなみに「昇給」と名詞表現をするときアメリカ英語ではraiseですが、イギリス英語ではriseです。例:pay raise (米)、pay rise(英)

3.「デフレ脱却」を英訳すると?

これも定訳がなく、exit/departure from deflationや動詞表現ではget out of deflation, end deflation, pull out of deflationなどの表現が使われます。同記事ではescape deflationと書かれています。

4.「賃上げ率」を英訳すると?

「率」とあるのでwage increase rateのようにrateを付けないといけないような気がしますが、同記事では使われていません。a paltry rise of less than 1%(1%未満という微々たる賃上げ率), [Asahi Group] plans to raise wages by 3.4%(3.4%の賃上げを予定している), an average pay rise of only 2.3-2.5%(平均賃上げ率は2.3%~2.5%のみ), [He has called for] a 3% increase this year(今年は3%の賃上げを…)などのように表現されています。

(日本語でも「率」がないほうが自然な場合も多いですね)

5.「少子高齢化」を英訳すると?

日本語では頻出の表現ですが、これも定訳がないので色んな表現をみかけます。『トレンド日米表現辞典』によると「少子化」だけでもdeclining birthrate, falling birthrate, reduced birthrate, decline/decrease in the number of children, low fertility, sharp drop in the birthrateが掲載されています。ただ、このような訳に「高齢化」も加えると冗長な印象を受けます。そこで、「少子化」→「人口減少」と捉えてshrinking and aging populationのように表現するとすっきりするのではないかと思います。

同記事ではThe population is falling and getting older…と(S+V)の文で表現されていますが、「少子高齢化が進行し…」に匹敵する英語表現だと思います。

以上、「春闘」関連の表現を紹介しました。

欧州の通訳トレーニングではよくnote the ideas not the wordsと言われますが、 “idea” を理解し、品詞や単語レベルにこだわらず柔軟な表現で訳す勉強になれば幸いです。

2018年2月13日

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記事を書いた人

グリーン裕美

外大英米語学科卒。日本で英語講師をした後、結婚を機に1997年渡英。
英国では、フリーランス翻訳・通訳、教育に従事。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
2018年ITI通訳認定試験で最優秀賞を受賞。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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