INTERPRETATION

Vol.20 石原 裕子さん「思い立ったら吉日」

ハイキャリア編集部

多言語通訳者・翻訳者インタビュー

今回はスペイン語通訳者の石原裕子さんにご登場いただきます。
大学時代の第一志望は広告代理店だったという石原さんがスペイン語通訳の道に進まれた意外な切っ掛けや”カッコイイ”息抜き方法など、あっと驚くエピソードやお話を沢山聞かせて下さいました。皆さん、何ごともチャレンジです!

【プロフィール】
石原 裕子さん Hiroko Ishihara
東洋大学社会学部マスコミ学専攻卒業後、スペインに単身留学。語学研修を経てサラマンカ大学に入学し、ディプロマを取得。帰国後、貿易事務所や議員事務所にて派遣社員として勤務後、スペイン語通訳者として活動を開始する。また、仕事と両立しながら立教大学大学院に入学、ホスピタリティーデザインを専攻し、MBAを取得する。通訳のかたわら、ご自身でも外国人向け旅行コーディネート会社を立ち上げ、日々クライアントと日本との懸け橋となっている。

Q.スペイン語を勉強しようと思ったきっかけは?
実は大学生の時は、広告代理店に入りたくて就職活動をしていたのですが、見事に片っ端から落ちてしまい夢が破れました。そこで、一回くらい外国に行ってみようかなと思って行き先を考えた時に、大学時代ヨーロッパ旅行をして一番印象に残っていたスペインが浮かんできたのです。町並みも綺麗で人も優しいし、当時の物価も安かったという理由もありますけどね。学生時代にがむしゃらにバイトして貯めた貯金をはたいて、単身渡西したものの、本当に言葉が何も分からず、旅行向けのスペイン語会話の本がどれだけ役に立たないかが分かりました(笑)。相手にせっかく質問をしても、Yes・No以外の返事だと結局理解不能な言葉が返ってきましたからね。
帰りの予定も決めていなかったので復路の航空券を買わずにいったのですが、想像以上に言葉が通じない異国の生活が辛く、すぐに後悔して帰りたくなりました(笑)。スーパーでの買い物の仕方(野菜や果物の量り売りなど・・)も分からないし、人が言う言葉も全く理解できず、自分に対して笑っているのか違うものを笑っているのか??など24時間そんな状態ですごくストレスにもなるし、そんな毎日で本当に疲れました。ただ、せっかく頑張って貯めたバイト代を叩き、周りからは散々無謀だとか言われて反対されたにも関わらず、強がって飛び出して来たので、意地でも帰れないと思ったんです。特に最初の2カ月くらいは毎日を意地だけで必至に過ごしました(笑)。そうしているうちにだんだん慣れて楽しくなって来たんです。スペイン語に関しても大学の授業でかじった程度だったので無に近く、それが逆に良かったのか、わりとすんなりと早く吸収する事が出来ました。特に伸びたのは、留学生同士のシェアハウスから地元(スペイン人)学生のシェアハウスに変えてからですね。留学生同士だとどうしても英語などで会話をしてしまっていたので、それでは伸びないと思い引っ越しを決めたんです。地元学生の友達と過ごすようになって、行動の幅もずいぶん広がりました(地元の人しか入らない様なレストランやバーに行くようになったり)。大学の勉強は確かに大変で毎日必至でしかたが、地元の友達の助けなどもあり、どうにか乗り切れましたし、本当に毎日充実して楽しい時間を過ごすことができました。

Q.帰国後、様々な企業で働かれていますが、その時からスペイン語を活用されていたのですか?
いいえ。常に”せっかく学んだスペイン語を生かしたい”という気持ちはあったんです。そこで色々なエージェントに登録はしていたんですが、たった1年半の留学経験だけで実務経験がなかったので、すぐには仕事の紹介をしてもらうことができませんでした。それでも、いつでもチャンスが来たり思い立ったら行動出来る様にと、敢えて正社員ではなく派遣やアルバイトとして社会経験を積んだんです。

Q.では、1年半の留学以外に通訳の勉強はされていないのですか?
学校には通っていないです。正直、通訳者になりたいとは思っていたわけではなく、ただ何かの形でスペイン語や留学経験を生かしたいと思っていただけなんです。実際に頂いたお仕事の中でスペイン語を話す各国の方々と接して文化の違いを感じたり、逆にそうした文化を日本側がどう受け応えるのかを観察するのがとても楽しくて、徐々に通訳という仕事に楽しさや遣り甲斐を感じるようになりました。一つ一つの実戦の場が通訳者としての勉強の場になっています。

Q.初めての通訳者としてのお仕事はなんだったのですか?
たまたま登録していたエージェントからエクアドルから来たFIFA国際主審とサッカーのレフェリー研修のアテンド通訳の案件を頂いたんです。サッカーはお好きですか?と聞かれて・・本当はサッカーに全く興味もないし通訳をする自信もありませんでしたが、せっかくのチャンスだったので逃したくなかったんです。とっさに「サッカー大好きです!」と答えました(笑)。
案件を受けることになってからスペイン語と日本語のサッカーのマニュアル(ルール)本みたいなものを買って勉強をしました。しかし、それでもまだ危険だと思い、お仕事が始まってから、アテンドをするエクアドルの主審の方に思い切って話したんです。私・・実はサッカーの事とかよくわからないんですけど・・実際どんな事を話されて私はどう対応したら良いのか教えて下さい!って(笑)。そしたらとってもいい方で、とっても親切に細かく教えて下さったんです。長期(約半年)にわたる研修の中で、移動中にルールや作戦を教えて下さったりして、私自身もサッカーを好きになる事が出来たし、本当にいい勉強・経験をさせて頂きました。その経験がきっかけとなり、その後もサッカーをはじめスポーツ関係の仕事を受ける機会が増えました。又、通訳者としての経験を積んだ事で新しい分野のお仕事も頂く事が出来るようになり、少しずつ自分の成長と共に仕事の幅も広がってきました。

Q.通訳の仕事の魅力はなんですか?
最近では、エージェントから仕事自体を丸投げの様な感じで、通訳業務が発生する前の先方とのコンタクトやコーディネートから自分でするような案件が多いんです。
事前準備を自分でする事により、大変な半面やり易かったりしますからね。先方が来日する前から自分でコンタクトを取って細かい調整をしているうちに本当にとても親しくなり、来日された時には「やっと会えたね」とか言われて(笑)それから一緒に行動する時もとても楽しんで頂いて「いろいろと有難う」とか、帰る時は「また機会があったら宜しくね」みたいな事を言われると、自分も本当に楽しいし嬉しくて、とても遣り甲斐を感じますね。

あと、一回一回自分は頑張っているつもりでも、毎回実際にどう評価されるかによって、もうそのお仕事を頂けなくなったりするので、また同じお仕事を頂いたり、クライアントから直接現場で、「また、あなたと仕事がしたい」とか「本当に有難う」とか言われる嬉しさが格別なんです。

Q.通訳のお仕事を始められてからまたMBAを取得しに学校に通われていますが、何か切っ掛けがあったんでしょうか?
通訳として働いていていると、様々な業種の方とお仕事が出来でとても楽しいのですが、逆に一期一会の出会いでなかなか親しくなれなかったり、その業界の話やマーケティングの話のふくらみについて行けなかったりというのが多かったので、きちんと経営やマーケティングについて勉強してみたいと思い、テストを受けて大学に通い勉強をしました。

Q.通訳者としてお仕事をされてきた中で、特に印象に残っている苦労や失敗談はありますか?
失敗は毎回のようにありますね(笑)。特にスペイン語が母国語の人が話す英語はアクセントが強くわかりにくいのです。その逆の英語が母国語の方が話すスペイン語・ドイツ語の方が話すスペイン語の発音もわかりにくいようにね…。中でも英語の人物名をスペイン語的に発音されると分かりづらく、全く見当違いの名前で誤訳をしてしまい、スピーカーに「訳が違います」ってはっきり言われた事もありますよ(笑)いくら事前準備を徹底的にして行っても想定外の事があるので、その場その場での対応は本当に毎回必至ですね。

Q.石原さんにとってのスペイン語の魅力を教えて下さい。
私はスペイン語の音が好きなんです。留学をする時にドイツ語・フランス語・イタリア語なども視野にいれていたのですが、スペイン語の音が一番自然と耳に入ってきて好きな音楽を聞いているような気持になったんです。
音楽でも、一回聞いただけで好きな音(メロディー)や嫌いな音ってはっきり分かりますよね。本当に感覚的なものなんですけどね(笑)

Q.語学以外の趣味はなんですか?
最近バイクにハマってます!ずっと免許をとりたいと思っていて、やっと合間を見て集中的に教習所に通ったんです。そして念願の一目ぼれしたバイクを購入し、時間があるときに乗ってます。ツーリングではなく、本当にちょこっと買い物に行く時に乗ったり週末に都心を走ったりするくらいですけど。以外と週末の都心は道路が空いていて気持ちいいですよ(笑)。お気に入りのバイクも実は免許を取る前に探していた時に一目ぼれしたんです。形・大きさ・色全てが自分が描いていた理想そのもので、即効予約をしました(笑)お店の方には、今まだ免許がないので乗って帰れないんですけど、必ず免許取ってから戻って来ますので!といって押さえてもらったんです(笑)バイクに乗っていると考え事に集中出来たり逆に無心になれたりして、良いリフレッシュになります。

Q.これからも通訳者としてご活躍されていくかと思いますが、将来の夢は何ですか?
実は今、通訳常務以外に、自分でも来日される外国人を相手に旅行の手配やコーディネートをする会社を建てて仕事をしています。以前は、お仕事で通訳者した方に来日ついでに日本を回りたいのだけど・・と相談されて旅行の手配を手伝ったりしていたんです。そういう機会が多くなったので、いっそ仕事としてやってみようかなと思うようになったんです。

ただ、旅行会社を建てるには資格を取らないといけないことに気づき、早速勉強して資格を取りました。来日が初めての方だと、一般的な有名所を巡るツアーで十分ですが、結構何度も来日されている方だと有名所は、ほとんど行った事あるので、そういう方向けに希望のスケジュールや内容を盛り込んだツアーを計画するのが本当に楽しんです。また、そういった企画やアテンドをすることによって、自分自身も普段気付かなかった日本の魅力に気付く事が出来るんです。

通訳の仕事でも、旅行コーディネートの仕事でもそうなのですが、どんな切っ掛けだったとしてもせっかく日本に来てくれたんだから限られた時間を満喫して貰いたいと思っています。それは私が留学していた時も同じで、1年半の時間を心から楽しめたのも友達が根気強く話してくれたり、助けてくれたりしたお陰だったんです。自分が経験者だからこそ、異国に行く時の不安要素などが分かるので、それを出来るだけ取り除いて楽しんでもらいたいというのが根底にはありますね。また、せっかく日本に来たんだから、本当の日本の文化を見て感じてもらえる様な旅や仕事のコーディネートをして、日本との懸け橋になれればと思います。

Q.通訳者を目指している方々へのアドバイスをお願いします。
言葉を使う仕事って、一重に通訳といっても色々な形があると思います。自分がこんな通訳者になりたいとか、こんな事をしたいと思い描きながら1歩1歩進んでいけば、いつかは実現できると思います。通訳者の仕事は華やかに見えるようで、毎回の仕事の事前準備など大変な事が沢山ありますが、それも含めて本当に好きになれば、色々な業界の知識がついたり出会いがあったりと、たくさん楽しいことや良いことが待っていますからね。どんどんスペイン語通訳人口が増えるのを楽しみにしています。

【編集後記】
通訳者の域を超えて本当に幅広くご活躍されていて、とてもパワフルで魅力的な方でした。石原さんの成功の秘訣は、思い立ったらすぐに実行し実現させてしまう行動力と、最後までやりぬく精神の強さだと感じました。それって簡単な様で一番難しい事ですよね・・
又、通訳業務のみならず、コーディネートからご自身でしてしまうという石原さんのホスピタリティー精神は本当に素晴らしく、そんな石原さんとお仕事が出来るお客さ様は幸せだなと思いました。

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記事を書いた人

ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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