INTERPRETATION

Vol.10 「チャンスと努力に支えられて」

ハイキャリア編集部

通訳者インタビュー

【プロフィール】
森万純さん Masumi Mori
小学校高学年より5年間イタリアに滞在。上智大学外国語学部英語学科卒業。在学中にUniversity of Durham(英国)に1年間交換留学。卒業後、外資系アパレルメーカーに通訳翻訳者として入社。その後、在日イタリア大使館での勤務を経て、フリーに。平成15年6月より、外資系通信企業に通訳者として勤務、現在に至る。

Q. 通訳者を目指すようになったきっかけは?

小学校の頃、漠然と「通訳ってかっこいいな」と思っていました。高校から日本で過ごしましたが、多くの帰国子女に比べて私の英語力は決して高くない、ということに気づいたんです。通訳に興味はありましたが、もっとすごい人がなるものなんだと思っていました。
大学4年時に1年留学したので、就職活動の波に乗り遅れたんです。たまたまジャパンタイムズで通訳翻訳者募集を見つけて応募したところ、運良く合格してしまって。経験が少ないのに、チャンスの方が先に来てしまったという感じですね。

Q. 実際に通訳を経験して、いかがでしたか?

周りからは、「通訳はフィルターだし、帰国子女で通訳になるなんて、当たり前すぎて面白くない」と言われました。確かに、人の言葉を訳しているに過ぎないと言われればそうなんですが、その中にも通訳として果たせる役割があると感じたんです。通訳によって、伝わる雰囲気も変わってくるし、思ったより向いているかもしれないと思いました。

Q. 帰国子女ということで語学に対する苦労はありませんでしたか?

非常に苦労しました。11才でイタリアに行きましたが、言語能力もかなり成熟している年齢です。毎日の宿題をこなすことが本当に大変で、特にイギリス系の学校に変わってからは、毎日吐き気がするほど辞書をひきました。辞書をひかずしては、一行も進めないんですもの。お陰で基礎ができたとは思いますが。

Q. イタリア大使館に就職したのは?

同じ業界に3年いたので、このままだと通訳として成長しないと感じました。そろそろ転職をと考えていた時期に、イタリア大使館の募集をジャパンタイムズで見つけたんです。
通訳翻訳以外に秘書業務などもありましたが、イタリア年ということで様々なイベントを体験でき、非常にいい経験になりました。

Q. どういうタイミングでフリーランスになろうと思いましたか?

秘書業務や雑務なども日々こなしながら、やっぱり自分は通訳が向いていると再認識したんです。通訳として更に上を目指すなら、きちんと通訳学校に通った方がいいとも思いました。次のことは何も考えずに辞めたんですが、登録したエージェントからたくさんお仕事を頂きました。思ったよりも仕事をしてしまった、というのが正直な感想ですね(笑)。

Q. 通訳学校での授業は、いかがでしたか?

通訳スキルという意味では、入学時点である程度備わっていたと思うんです。一番身に付いたのは、「知識」です。若手でインハウスとして仕事をしていると、どうしても業界も限られてくるし、その会社の中のことしか分からないんですよ。学校に行くと、国連のスピーチや国際政治経済など、普段自分が通訳しないような分野に触れられます。毎日新聞を読んでいないと、とても通訳できないようなことが出てくるんです。そういう意味では、私にとって学校は知識を得る場だったと思います。それから、ペースメーカー的な役割。自分だけだとやっぱりさぼっちゃいますから……。

Q. 現在は通訳学校で講座をお持ちだと伺いましたが。

そうなんですよ、恐ろしい(笑)。授業の準備にかける時間が、自分が生徒として授業前に準備する時間の倍なんです! 授業中は、生徒さんの訳を直し、コメントしないといけないので、それだけ準備する時間も増えます。大変ですが、自分のスキルアップにもなっています。

Q. 再びインハウスとして企業で働かれるようになって、いかがですか?

もともとサボりがちな性質なので、平日のお休みを恋しく思うことはあります。しばらくすると、また新しいことを学びたいと感じる時期が来るんじゃないかと思いますが、私にとっては新しい業界ですし、学ぶことは本当にたくさんあります。

Q. 今後のキャリアは?

今、本当の意味でフリーになるタイミングを図っているところです。安定を求めるなら、今の仕事を続けるのがいいのかもしれませんが、年齢的にもフリーになるんだったら、今かなと思っています。今は100%通訳に集中していられますが、これから人生の中で変化もあるでしょうから、そうもいかなくなってくると思うんです。今のうちにフリーランスの環境に慣れておいたほうがいいかなと思って、「そろそろ」、と考えています。

Q. 通訳を目指す方へのメッセージをお願いします。

やる気があって、コツコツと努力できる人だったら誰でもなれると思います。きっと私はラッキーで、最初のチャンスが先に来たので、経験を問われなかったんですが、最初の一歩を踏み出そうとしても、「経験重視」と言われると難しいと思うんです。例えば、アシスタント業務をしながら通訳が少しできる仕事をするとか、もし全く別の仕事に就いていても、何かのきっかけで通訳を頼まれたらちょっとやってみるとか、なるべく通訳に近い環境に自分を置くようにしてはどうでしょうか。チャンスは生まれてくると思います。

<編集後記>
「もし通訳者になっていなかったら?」の質問に、「多分、踊っていたと思います」とのお答えが返ってきました。小さい頃からクラッシックバレエを習っていらっしゃるそうで、まさにバレエダンサーという雰囲気でした! もうすぐフリーランスになられるそうですが、益々ご活躍されること間違いなしだと思います。

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ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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