INTERPRETATION

第373回 異なる視点を持つ

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

子どものころから「書くこと」が好きでした。

幼少期、親の転勤で海外に暮らしていたころ、「毎日小学生新聞」を定期購読していました。インターネットなどない時代です。1週間遅れで日本から紙の子ども向け新聞が届けられるのを心待ちにしていました。

毎日小学生新聞には読者投稿欄やお悩み相談コーナー、作詞作曲コラムなどがあり、全国の子どもたちがたくさん寄稿していました。おそらく海外からの投稿は私だけであったと記憶しています。「イギリス・ロンドン在住、小4、Sさん」との匿名で載せてていただいたことが何度かありました。

当時の私は学校や家庭において悩みを抱えていました。悩み相談ではプロの先生が回答してくださり、「海を越えてもこうして励ましてくださるのだ」と大いに勇気づけられました。一方、音楽が好きだった私は、他の小学生が寄稿した詞に曲を付けてみたり、あるいは私自身が詞を投稿したりということがありました。今でも覚えているのは、「白い子犬」と題する詞を載せていただいたことです。当時暮らしていた自宅近くには赤いポストがありました。通学途中に白い子犬を見たことを題材にして詞を書いたのです。掲載されると私の詞に日本各地の毎小読者の小学生が曲を付けて応募してくれました。それを紙面上で見るたびに嬉しく思ったものでした。

文章を書き続けることはその後も私の生活の一部となり、社会人になってからは各種モニターに応募しています。市政モニター、テレビ局モニター、行政関連や食材メーカーのモニターなど、分野も多岐にわたります。書くことを通じて私の意見を先方へ寄せ、一市民の意見として少しでもお役に立てばという思いを抱いています。

今年度は「防衛モニター」に携わっています。これは防衛省のホームページで見つけたもので、日本の防衛や自衛隊に関して意見を寄せるというものです。駐屯地で行われるイベントや式典などにもご招待いただき、参加して感想を送るのも防衛モニター活動の一部です。

先日のこと。地元の駐屯地でヘリコプター搭乗体験があり、招待されました。もともと乗り物は大好きですので、今回はその機会をいただき、とても嬉しかったですね。

搭乗したのはUH-1Jという富士重工のヘリコプターです。搭乗時間は20分ほど。駐屯地から飛び立ち、地元を旋回するというものでした。ヘリコプターですので、高度もさほど上がらず、地元の景色を大いに堪能できました。

普段の生活でも十分馴染みのある光景を、あえて空から眺めてみると様々な発見があります。家々の屋根の色、大規模マンションの形や学校・病院の施設など、「下から見上げていたもの」を「真上からとらえること」ができたのです。インスタグラムで上から撮影することを「鳥の視点」と言うそうですが、まさに今回のヘリコプター搭乗はそのような気分に浸れました。

今回の搭乗を通じて思ったこと。それは「異なる視点を大事にする」ということです。日常生活ではついつい同じ角度から物事をとらえがちです。それは物理的な建物や景観だけではありません。価値観や基準なども、常に自分の立ち位置があり、そこから「のみ」とらえてしまうのです。

BBCでは報道基準の一つとして、「異なる立場のゲストを平等に招く」というものがありました。たとえば中東問題であれば、イスラエル・パレスチナ双方の関係者を番組に呼び、意見を尋ねるのです。同一番組内で行うことが理想ですが、それが難しい場合はなるべく時間をおかずに出演していただきます。これも視聴者が「異なる視点を持てるようにするため」でした。

BBCの報道用語も同様にガイドラインがありました。たとえば「テロリズム」ということば。これは一方からすれば卑劣な行為になりますが、他方からすれば「自分たちは抑圧されている以上、武力に訴える以外手段がない。よってこれは聖なる戦いなのだ」という言い分になります。

バランスよく物事をとらえ、違った考え方でアプローチしてみること。

今回のヘリコプター搭乗を通じて、改めてその大切さを認識したのでした。

(2018年11月20日)

 

【今週の一冊】

「池上彰のニュースに登場する世界の環境問題 <10>エネルギー」アンジェラ・ロイストン原著、池上彰監修、さ・え・ら書房、2011年

エージェントから連絡を受け、テーマと日時を聞いたら、さあ、準備開始です。通訳者への支払い料金(いわば「ギャラ」ですね)は、一般的な時給と比べれば良さそうに聞こえるかもしれません。けれども当日までの必死の準備もすべて含まれるのです。仕事に必要な書籍代、リサーチ代、時間と手間すべてがそこには入っているのですね。業務当日までは寝ても覚めてもそのテーマのことばかりを考えることになります。私はこれを「無生物への一方的片思い」と呼んでいます。

では、どこから手を付ければ良いのでしょうか?私が通訳者デビューした当時はインターネットがありませんでしたので、百科事典、新聞の縮刷版、雑誌のバックナンバーなどがリサーチ・ターゲットとなっていました。たとえば洋酒関連の仕事を請け負ったときは、近所のスーパーの洋酒コーナーに行き、棚のすべてをなめるように見て回りました。釣竿の仕事のときは釣具店へも行きました。自分の足で調べることにより、思いがけない出会いやヒントがあり、とても役に立ったのです。現場に足を運ぶことというのは、インターネットとはまた違った利点があると私は今でも思っています。

下調べをする上でもう一つ助けになるのが「子ども向け書籍」です。幼稚園児や小学生が使う百科事典や図鑑、中学生向けの新書シリーズなどは情報の宝庫です。しかも図や写真が豊富にあり、読み仮名も振ってあります。活字も大きいのでスラスラ読めて、あっという間に一冊を完読できます。どの年齢層向けの書籍であれ、「読み終えた!」という達成感は密かな自信につながります。

今回ご紹介する一冊は子ども向けの本です。解説はテレビでおなじみの池上彰さん。やさしい語り口で書かれており、理解を進めるにはうってつけです。本書で取り上げられているのはバイオ燃料、化石燃料や再生可能エネルギーなどです。「知っているようで意外と知らないこと」こそ、こうした子どもを対象とした書籍で確認する上で基礎知識の定着に役立ちます。

ちなみに原著者のAngela Royston氏は1945年イギリス生まれの作家です。子ども向けノンフィクションを多数出しています。本書の原書タイトルは“Energy for the Future”です。洋書版と合わせて読み比べるのも楽しいですよね。

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柴原早苗

放送通訳者。獨協大学・順天堂大学非常勤講師。 上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。 ロンドンのBBCワールド勤務を経て現在はCNNj、CBSイブニングニュースなどで放送通訳者として活躍中。 NHK「世界へ発信!ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当。 ESAC(イーザック)英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。 通訳学校にて後進の指導にあたるほか、大学での英語学習アドバイザー経験も豊富。 著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)、「英検分野別ターゲット英検1級英作文問題」(旺文社、2014年:共著)。

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