第683回 そこから?ハイ、そこからです
社会人になりたての頃、国際交流や青少年研修事業にはまっていたことがあります。何しろそのような行事というのは年齢制限付き。多くが「30歳まで」とうたわれていました。大学や職場以外の場所で新たな出会いがあるこうしたイベントというのは、私にとって魅力だったのです。「年齢の上限に達する前に色々と参加しよう」と思い立ち、せっせと応募していました。応募すれば自動的に参加できるものもありましたし、選考型も。多数の応募者を勝ち抜いて(?)合格通知を頂くと、嬉しくなったものでした。
そのような事業のうちの一つで、国内外の若者たちと沖縄研修旅行へ出かけたことがあります。戦争遺跡の訪問、戦争体験者からお話を伺うなど、盛りだくさんのプログラム。夜には交流イベントも催され、様々な国籍の方と話す機会がありました。
とある夜のこと。仲良くなった留学生たちと宿泊所の中庭で飲み会に。気づいたら泡盛のボトルを一人で私はほぼ飲み干していました。泡盛は相当に強いお酒のはず。でも幸いなことに翌日も普通通り事業に参加できました。
あれからずいぶん年月が経ち、今の私はというと完全なる「下戸」。少し飲んだだけでもあっという間に酔ってしまいます。体質というのは変わるのかもしれませんね。
そんな「お酒は全く受け付けず状態」の私が最近請け負ったのが、アルコール業界のセミナー通訳。久しく飲んでいませんし、アルコールの種類についても知識欠乏状態。さあ、準備をどうするか?悩みました。
このような時、私が常に自問自答するのは、「その内容を5歳児に丁寧に説明できる?」というもの。自分の知識がしっかり備わっていれば、かみ砕いて子どもにも話すことができますよね。でもあやふやな状態であれば説明も怪しくなります。今回のアルコール関連はかなりおぼつかない状況です。
ではどうするか?
こうなるともう徹底的に基礎の基礎から学ぶしかありません。池上彰さんは「世界そこからですか!?」という本を出しておられます。まさにベーシックな所からスタートするのがこの本の特徴。私もまさに「通訳予習、そこからですか!?」「ハイ、そこからです」が出発点となります。
今回はまず、「醸造酒」と「蒸留酒」の違いから。私の中ではずっと混同していたのですが、醸造は発酵作用を用いるのに対して、蒸留は加熱する方法。醸造所は英語でbrewery、蒸留所はdistilleryで、breweryのbrewはパンのbreadと同じ語源と辞書にありました。ああ、なるほど!「パン=発酵」だからbrewにつながるのですね。これですぐに覚えることができました。
ところで予習段階で「二条大麦」が出てきたのですが、私はてっきり「九条ネギ」同様、京都産だと思っていました。「京都の二条城近くで栽培→二条大麦」と思い込んでいたのですが、これは間違い。二条大麦というのは、粒が2列に並んでいるため、このような名称になったそうです。知らなかった・・・。
相変わらずliverとkidneyは混同するし、警視庁と警察庁の違いも数年前にようやく知った次第。田中角栄元首相が暮らしていた「目白御殿」は、「国会議員たちがせっせと田中邸詣でをする→目白押しになる→だから目白御殿」だと思っていました。正解は、「住所が文京区目白台だから」です。ああ・・・。
通訳予習における数々の新発見!知らないことを知るのは喜びでもあるのですよね。未知を恥じず、これからも学び続けたいです。
(2025年5月27日)
【今週の一冊】
「機長の『集中術』」小林宏之著、阪急コミュニケーションズ発行、2010年
通訳の仕事というのは集中力を求められます。集中できる時間については色々と研究結果がありますが、大人であれば最大90分、子どもなら45分というのが一般的なようです。確かに小学校の授業は45分ですし、大学の授業やスポーツ試合など90分というケースが多いですよね。
では通訳者は?こちらも人によりけりですが、同時通訳の場合、長くても15分とよく言われています。ちなみに普段私が携わっているCNNニュースの場合はブースにたった一人で入り、30分間ひたすら通訳を続けます。幸い、CNNの通常ニュースであれば間に数回CMが入るので、そこで一息つけるのですね。ただ、Breaking NewsなどになるとCMが一切入らないこともあります。そうなるとひたすら通訳です。水分補給もできませんので、かなりハードになります。
さて、今回ご紹介するのはJALの機長として活躍された小林宏之氏による一冊。日本航空が運航したすべての国際路線を飛んだ最初で最後の機長として知られています。パイロットならではの観点からとらえた集中術ですが、私たちの日常生活や仕事でも大いに取り入れられるヒントが満載です。
中でも印象的だったのが、集中力とは「捨てる技術」である、という部分。機長として安全に飛行機を運航するためには、何が必要で何が不要かを常に考え、不要な部分は捨てなければいけません。迷ってしまえば数百人の命が危険にさらされてしまうのです。
本書には他にも「楽しければ、勉強も努力も苦にならず」(p57)、「自分の命の使い方は、自分の時間の使い方」(p103)、「集中力のない人は決断力もありません」(p138)など名言もたくさん。読むと元気になれる一冊です。
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