INTERPRETATION

第513回 「お願い 先に 結論」

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

埼玉県川口市の自治体PR。電車内のスクリーンでも動画が流れています。キャッチコピーは「お願い 住んで 川口」。実は東京のすぐ北にある川口市は、家賃相場も東京に比べればお手頃。都心へのアクセスも良く、子育てしやすい街として定住をしてもらうべく広報活動をしているのですね。自虐的な内容が口コミで広がり、ニュースでも取り上げられ、川口の名前は全国規模で知られるようになりました。

一方、「都道府県の中で最後の最後までスタバが無かった」鳥取県ですが、こちらも平井知事が「スタバはないけどスナバ(=砂丘)はある」という、これまた自虐的キャッチコピーで一躍有名になりました。こうしたユーモアある自虐。実は大事なのではと私は思うのですね。行政の上に立つリーダーがそうしたセンスを身につけていれば、そこで働く職員も大らかな気持ちになり、それが政策に反映され、住民にとっての幸せにつながると感じるからです。

さて、今回のタイトル「お願い 先に 結論」は、上記の川口市キャッチコピーにヒントを得て付けてみました。今日は「通訳者からのお願い」です。

英語と日本語というのは、文法の違いがありますよね。文章の構造も異なります。英語であれば「主語+動詞」ですが、日本語は「主語の後に色々と説明部分があって、最後に動詞」となります。通訳者にとっては、この構造の差が非常に大変なのです。

同時通訳現場では、とにかく聞こえてきた単語をどんどん目的言語にせねばなりません。日本語として自然な文章にするのであれば、通常の日本語のように「主語+説明部分+動詞」の方が良いでしょう。でもそこまで英語の動詞を頭の中に記憶させておくことは難しいのですよね。よって、たとえばPresident Biden said …という文章であれば、「バイデン大統領が述べたところによると」という風にさっさと動詞を言った方がラクになります。

一方、苦しいのは日本語から英語への同時通訳です。主語を聞いてから動詞に至るまでのキョリがとにかく長い!同時通訳しながら、「・・・で、結論はどっち?」と気になります。よって「シロかクロか、早くハッキリさせてぇ~~」と内心思いながら同時通訳する羽目になるのです。

通訳現場でこのように思うことが多いせいか、私の場合、日常生活でもこの「はよ結論を!」というメンタリティが非常に強くなっています。

たとえば、ニュースで以下のような文章を聞いたとき:

「・・・ここで鉄道の情報です。JR○○線は、A駅で発生した△△によりB駅とC駅との間で運転を見合わせていましたが、□時□分に運転を再開しました。繰り返します。JR○○線は(以下省略)。」

私としては、「JR○○線は、運転を再開しました」がとにかく早くに必要とされる情報だと思いますので、ここを冒頭で伝えてほしいのです。運転を見合わせていた理由、つまり細かい情報は、繰り返しの際に知ることができれば十分だと思うのです。ゆえに「お願い 先に 結論」となるわけです。

いえ、もちろん、日本語には日本語の語順の良さなどもあることは承知しています。でも、もし「通訳者を使う会議で自分が発言者となる」という場合は、ぜひ「先に結論」でお願いしたいと思います。あ、交通情報も結論先で。

(2021年10月26日)

【今週の一冊】

「外交的英対話学習法」宮家邦彦、山中司、伊藤弘太郎著、南雲堂、2021年

注目して頂きたいのが書名の「英『対話』」の部分。「英会話」ではなく、対話に重点を置いた書籍であることがわかります。著者のお一人である宮家邦彦氏は元外交官で、現在はキヤノングローバル戦略研究所で研究主幹を務めておられます。外交関連の多くの著作を出しておられ、鋭い分析力で海外情勢をわかりやすく解説されていることで知られています。

本書を出版しているのは、主に大学向け語学テキストを発行している南雲堂です。よってこの一冊も授業用テキスト、とりわけ外交官を目指す人にとっては実力向上につながる一冊となるでしょう。

特に印象的なのは、本書で紹介されている例文が、外交舞台を想定したものであることです。また、海外との交渉で必須とされる用語がアルファベット順に出ており、外交英語辞典としても使えます。

「外交問題はレベル的に難しそう」と思う方には、せめて「はじめに」の部分だけでも読んでいただけたらと思います。宮家氏の英語学習に対する熱い思いが書かれているのです。モチベーションが大いにアップするはずです。

最後にもう一つ。数日前にNHKが外務省の通訳外交官にスポットをあてて、記事をアップしていました。とても参考になります。
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/70501.html

Written by

記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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