INTERPRETATION

第524回 最近のライフハック

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

「ハック」ということばが使われるようになってから久しいですよね。本来はコンピュータ用語であり、hackはもともと「コンピュータを楽しみながらいじくりまわす」「プログラムを巧妙に改変する」という意味。「ハッカー」はマイナスなイメージですが、その一方で、「ライフハック」「スタディハック」などのハックは「小ワザ、実践」を指します。日本ではかつて「ヒント」「ポイント」などと言われていましたが、「ハック」もすっかり定着していますよね。

さて、今週は最近私が生活の中で感じたハックをいくつかご紹介します。少しでも参考になれば嬉しいです。

1 集中したいときは時計を隠す
→最近私はオンラインのヨガレッスンを受けています。使っているPCの横に置時計があるのですが、画面を見ると必然的にこの時計も目に入ってきます。そこでレッスンに集中するため、受講中は時計を伏せることにしました。と言うのも、時計があると「ああ、まだ10分もある(←きついレッスンのときなど特に)」「これを終えたら夕食作らないと」という具合に雑念が入るからです。とりわけヨガの場合は呼吸も大切になってきます。せっかくの30分レッスン。本来の動きに集中すべく、時計は「オフ」です。

2 完璧を求めない
→数週間前の年末。新聞やネット記事には大掃除特集が沢山掲載されていました。が、そうした記事を読むと「簡単」「楽ちん」と言いつつも、普段の私の方法よりかなーり高度な内容。「ええ?ここまでやらないといけないの?うーん・・・」と気持ちが萎えて、結局取り組まなかったのです。もちろん、そうした方法を用いれば完成度は高いでしょう。でも我が家に外部点検が入るわけでもなし、掃除のプロを目指しているわけでもなし。ならば自分なりの方法で良いはず。ハウツーを読んで完璧を意識するとモチベーションが下がってしまいます。ちなみにどこかで読んだのですが、「その道のプロほど、自分の分野では完璧を求めない」のだとか。確かに私自身、英単語や通訳学習で完璧など求めていません。無理だとわかっているからです。それよりも楽しくワクワク、です。

3 時期が来ればはい上がれる
→たとえば辛い出来事があったとき、人は大いに悩みますよね。先が見えなくなり、「一生このまましんどいのかなあ」とお先真っ暗になりがちです。頭の中でネガティブな考えは肥大化し、周囲と比べてしまい「なぜ自分だけ?」とドーンとなってしまう。そんな時は誰にでもあると思います。たとえ今、目の前でものすごーく明るく振る舞っている人がいたとしても、その人自身、陰では苦しんでいたり、あるいは過去に壮絶な経験をしたりということもあるのです。私も気分の乱高下にクタクタになったことがあるのですが、「時期が来れば必ずどこかで糸口が見えてくる」と実感した経緯があります。時間はかかりますが、それも個々のペースなのですよね。

4 睡眠・運動・栄養・仕事
→若い頃と比べて無理がきかなくなってきた際、意識すべきはこの4つと痛感しています。睡眠に関しては早朝シフトで寝不足になりがちですので、日中に仮眠をとったり、仕事の帰路にマッサージ店へ立ち寄り、そこで爆睡するなど、疲れをためないようにしています。運動は最近はもっぱらヨガやストレッチのオンラインクラス。栄養は野菜スープをよく摂るようになりました。「一口サイズに野菜を切る→硬めのモノはレンジで柔らかくする→お湯を沸かして入れる→コンソメなどで味付ける」という超シンプルなものですが、満腹感もあり今の時期は体も温まって幸せな気分になります。睡眠から栄養までがバランスよくなってくると、仕事への意欲も高まります。仕事の達成感は自己肯定感を高めてくれます。

5 笑う!とにかく笑う!
→今、気に入って参加しているオンラインレッスンのヨガの先生が、画面越しで実によく笑う方。その笑い声(ご本人は「ガハハ笑い」と仰ってます)を聞くだけで元気が出るのですね。ということは、自分自身もよく笑うようにすれば、気持ちも上がるはず。そう信じて「声出し笑い」を意識するようにしています。

・・・という具合に、最近意識しているハックを今回は5つご紹介しました。まだまだ試行錯誤のさなかですが、日々をより幸せに生きるためにもっと工夫していきたいです。

(2022年1月18日)

【今週の一冊】

“Peril” Bob Woodward, Robert Costa, Simon & Schuster, 2021

トランプ氏が退任してから出ている数々の書籍で特に話題になったのがボブ・ウッドワード氏らによるこの本。ウッドワード氏はワシントンポスト紙の編集委員で、ウォーターゲート事件での調査報道(investigative reporting)を行ったことで知られています。

本書のページ数は480ページ強。非常に分厚い一冊です。最初から読んでいたら私などかなり時間がかかるのは明らか。そこで(著者には申し訳ないのですが)、私なりの「ざっくり読み」で拝読しました。

まず最初にじっくり読んだのは冒頭の部分。Prologueとあります。そして目次に目を通し、次にいきなり巻末のEpilogueへ。最初と最後を読むとおおまかな内容を把握できます。私の場合、日頃からCNNの通訳でトランプ関連ニュースには触れていたので、細かい部分よりも自分が興味のあるところを重点的に読むことにしました。

その際に役立つのが巻末の索引。日本の書籍にはまだまだ索引があったりなかったりなのですが、洋書の多くは巻末索引が充実しています。アルファベット順に細かく出ており、小さなフォントで24ページもありました!最初の「A」から一つずつ読み、興味のあるキーワードに出会ったら、その都度該当ページをめくってその箇所だけ読む、ということを「Z」に至るまで繰り返すのですね。

今回、私が特に丹念に読んだのはCNN関連。結構ありました。また、バイデン氏の息子ハンター氏にも興味があったので、そちらもじっくりと。結果としては確かに虫食い読書ではあるのですが、「自分が一番知りたいこと」をメインに読むことができたので、読後の満足感は大きいものでした。

「洋書は大作過ぎてハードルが高い」と言う方も多いと思うのですが、実はindexのおかげで日本語の本よりも読みやすいと感じます。今年は中間選挙があるアメリカ。トランプ氏に関する分析本も大いに参考になることでしょう。

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柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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