INTERPRETATION

第625回 めざせ!自動操縦

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

先日、ネットで興味深い記事に出会いました。「マッサージ通いは不健康の始まり」という、なんとも衝撃的(?)なタイトルです。

健康はお金では買えない!? マッサージ通いは不健康の始まり  #プレジデントオンライン https://president.jp/articles/-/15608

何しろ私の場合、同時通訳の緊張感や授業での発声で、首・肩・肩甲骨は慢性的なコリ状態。長きにわたり、定期的にマッサージや鍼灸院のお世話になっていました。それだけでもかなりの出費でしたが、「仕事の必要経費」と割り切っていたのです。幸い、昨春からラジオ体操に励むようになり、だいぶ緩和はされました。が、それでもツライときはプロの助けを借りているのですね。

ただ、私の場合、お悩みポイントがありました。それは、施術直後は体がラクになるも、すぐにまた固くなってしまうということ。体質的なものかなと思い、しんどくなるとマッサージ店通いを繰り返していました。

上記の記事には、3名が紹介されています。体調管理のためにマッサージを利用する人、スポーツジム通いの人、ジョギングをする人という3パターンです。すなわち「プロの助けを借りる人」「施設を活用する人」「すべて自力でおこなう人」ということになります。出費としては1人目が最高額です。

この記事を読み、私は体調管理と英語学習の類似点を感じました。語学を学んでいる人で例えると、

「スクールや先生などでプロの指導を受ける人」
「アプリやテキストなどの市販品を活用する人」
「すべてセルフで学習する人」

ということになります。一番お手頃価格は3番目ですよね。

私自身、振り返ってみると、義務教育時代から通訳者になるまでは、「学校の先生」のもとで学んでいました。指導者がいたことで、学習のコツをつかむことが出来たのです。その後、TOEICや英検の勉強を自力でしていたころは、市販の教科書を使いました。学校での勉強方法が参考になったのですね。

そして現在。

私の英語学習は、「通訳業務の予習そのもの」が学びとなっています。未知の単語やトピックを調べることは、当日の訳出完成度に直結します。手を抜いてしまえば良い通訳が出来なくなる、それは仕事で信頼を失うことにつながるため、私にとっては恐怖です。ゆえに学びは真剣になります。ただ、予習は悲壮感一色かと言えばむしろその逆。辞書引きや音読、シャドーイング、英訳・和訳作業などは私にとってとても「楽しい作業」なのですね。時間を忘れるほどです。

ダイエットや運動も同じだと思うのです。自重で筋トレをしたり、家にあるタオルやグッズ、ラジオ体操などを活用したりするだけでも、大いにエクササイズになります。今や素晴らしいエクササイズ動画がたくさんありますので、それを視聴するのも楽しいひととき。「自力で体を動かすことにワクワクする」というメンタリティになれば良いのですよね。

思い起こせば私の場合、マッサージ店でお世話になる以外は、家でストレッチは皆無でした。これではあっという間に体が凝るのもわかります。

自分で工夫をしてみる。その試行錯誤自体を楽しんでいく。

英語学習も運動も、「自動操縦」ができれば、しめたものです。

(2024年3月12日)

【今週の一冊】

「東京かわら版」2024年3月号 第609号 東京かわら版発行

コロナのロックダウンのころからハマっているのが毎週日曜日に日本テレビで放映される「笑点」。噺家さんたちが出演している長寿番組です。これを機にすっかり落語に魅了され、笑点メンバーの独演会などを中心に寄席などに出かけています。

落語の良いところ。それは誰ものけものにされず、ストーリーに爆笑し、最後はうなるようなオチに納得する、という安心できる展開があることです。高座の噺家さんがてぬぐいと扇子だけで話を進めるというのは、高額製作費を投じるハリウッド映画の対極にあります。聞き手が想像力を駆使すること、落語家の話の流れに皆が乗っていくことが必要。つまり、双方向作用の無形芸術なのです。

今回ご紹介するのは、月刊落語情報誌の「東京かわら版」。サイズは手ぬぐいを折りたたんだのと同じぐらいコンパクトです。創刊は1974年で、寄席演芸情報がぎっしり詰まっています。バブル期を過ごした方であれば、雑誌「ぴあ」の、あの細かい文字がぎっしり、というイメージでしょう。

この雑誌の凄いところは、月間カレンダーの充実度。これ一冊があれば、ふと時間が空いたときに「今日はどの寄席に行こう?」と探せます。また、噺家さんの出演リストも完璧。「推し活」も簡単にできるのですよね。

3月号の表紙を飾るのは新真打の三遊亭わん丈さんと林家つる子さん。わん丈さんの落語を先日埼玉で聴いたのですが、故郷・滋賀県のネタを埼玉県と絡めたのが秀逸でした。お腹がよじれるほど笑いました!

一人でも多くの方に落語の楽しさを知っていただければ幸いです。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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