INTERPRETATION

第288回 番付2016

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

日本経済新聞では時々、商品に関する番付が発表されています。その年に発売されたアイテムやサービスなど、東西に分けて相撲番付のごとく紹介しているのです。「そういえば、今年の始めにこれが流行したっけ」「このサービスは本当に便利だった」という具合に、一年を振り返りながら私もその記事を欠かさず読んでいます。

私の場合、もともと「モノをできるだけ増やさずスッキリ暮らしたい」という思いがあります。片づけや断捨離など、書店でそうしたキーワードの本を見かけるとつい読んでしまうほどです。ヘアサロンで手にする雑誌にも不定期で片づけ特集と銘打った企画がよく掲載されています。ヘアカラーから帰宅後、そのまま片づけ開始などということもありますね。

出来る限り今あるモノで何とか切り抜けるべく、創意工夫をすることがおそらく私にとっては楽しいのだと思います。とは言え、手持ちのアイテムだけではうまくいかない場合、もちろん新たな商品を調達します。そこで今回は、今年私が入手したモノや利用したサービスで役立ったものをご紹介しましょう。読者の皆様の参考にしていただければ幸いです。

1.多機能ペン

私は長年「3色ボールペン+シャーペン」の多機能ペンを使っていました。インクの出が非常に滑らかで書き易く、キャップ側には小さな消しゴムも付いています。鉛筆書きをする際にも安心して使えるのですね。替え芯も多めに揃えて同じペンを長いこと愛用してきました。ところが今年初め、このペンが壊れてしまったのです。同じ型版を探したところ、なんと製造中止!ネットオークションでも探しましたが、見つかりませんでした。そこで使い始めたのが、あの有名な「消せるボールペン」です。この3色タイプを現在は使っています。多少インクの消費が早いのですが、書いて消せるという便利さは何物にも代えがたく、以来、ヘビーユーザーになっています。迷った末に購入しましたが、大満足の一品です。

2.ビジネス型リュック

ハイ、今年もビジネスバッグが壊れました。重いものを入れてガンガン使うため、ビジネスバッグはいわば消耗品です。これまでは肩にかけるタイプだったのですが、左肩にいつもかけるため、肩こりの原因に。そこで買ったのが女性向けビジネスリュックです。私の場合、中にA4書類が「横向きで入ること」が絶対条件だったのですが、幸いインターネットで見つけることができました。肩に背負うことがここまで体を軽くしてくれるのかと実感しています。

3.小型ショルダーバッグ

引き続きカバンの話題です。ついついあれこれ入れて重くなるのを防ぐため、今年は「容量自体が小さいカバン」を選びました。ショルダーにもなり、手にもかけられる布製バッグです。長さを調節することで斜め掛けにもできますので、重宝しています。

4.オーダー靴

外反母趾に長年悩まされている私にとって、歩きやすい靴というのはほぼ不可能な状態が続いていました。そこで今年は思い切ってオーダーのパンプスを入手してみたのです。型を取り、足のタイプなどを徹底的に測定したうえで作っていただいたところ、足にしっくりとなじみ、たくさん歩いても全く疲れないパンプスが手に入りました。量販店の靴と比べれば確かに高額ですが、毎日自分を支えてくれ、健康をも左右する靴ですので費用対効果大です。

5.家事代行サービス

今年も窓や浴室・台所の掃除サービスを専門会社に頼みました。自分で掃除できなくもないのですが、たまってしまった水垢や窓の桟の汚れなど、素人で落とし切るには限界があります。家事代行会社はキャンペーンを実施していますので、「年末の大掃除の時期に」などと言わず、季節外れであってもキャンペーン期に合わせて依頼することでpeace of mindは確実に得られます。私の場合、スタッフの方々にお掃除していただいている間、別室で仕事が大幅にはかどったのは言うまでもありません。

以上、私にとって大いに役立ったものを「番付」でご紹介しました。ちなみに今年は旅先でレンタカーを借りる際、以前から乗ってみたかった新車にトライしたり、ようやく我が家にもカーナビやETCを取り付けたりと、車関連でも楽しい進歩がありました。モノやサービスを上手に使い、充実した日々を来年も送りたいと思います。

(2016年12月19日)

【今週の一冊】

「シェイクスピアは『ターヘル・アナトミア』」 近藤ヒカル著、光陽出版社、2011年

シェイクスピアの生年は1564年、没年は1616年です。「人殺し、色々」と私は覚えたものでした。同年代の日本と言えば、朱子学・林羅山の時代です。

今回ご紹介する一冊は、シェイクスピアの作品に出てくる様々な病気をテーマ別にとらえたものです。ページをめくると「外科学」「内科学」「伝染病」という具合に紹介されています。私はシェイクスピアの作品すべてを読破したわけではないのですが、これまで鑑賞したいくつかの劇を中心に本書を読み進めてみたところ、実に興味深い内容でした。

たとえば「リア王」。この劇の中には一時リア王が狂気に見舞われ、末娘のコーディリアが父親を救うシーンがあります。他にもマクベスの狂気についても説明されています。現代の医学と当時の治療法の比較や、聖書に描かれた同様の病気など、著者は幅広い視点から記しているのがわかります。

病気と死。これは人が生まれてきた以上、平等に与えられるものです。古の時代の病への思いと現代の西洋医学、神が病気をどうとらえたか、あるいは中世の画家たちが病をどのようにキャンバスに描いたかなど、シェイクスピアをキーワードに教養的な知識を得ることができる一冊となっています。

本書を読み進めるにつれ、病気による差別がかつてどれだけはなはだしかったか、そして多くの人々の良心や倫理観により、いかに偏見が克服されていったかも読み取ることができます。この一冊を読むことで、シェイクスピアや医学への距離感が縮むというのが私の読後感です。シェイクスピア没後からちょうど今年で400年が経ちます。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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