INTERPRETATION

第293回 集中の方法

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

私はこれまで仕事の仕方を試行錯誤しながら変えてきました。限られた時間を有効に使うためにはどうすれば良いか色々と試しており、その試みは今も続いています。仕事の質や自分の年齢、置かれたライフステージなどによって方法が変わるものなのでしょうね。そこで今回は「どのようにすれば集中できるか」についてお話いたします。少しでも参考になれば幸いです。

(1)まずは集中できる場所を確保する

フリーランス通訳者の場合、仕事準備は自宅だけで行うとは限りません。特に私の場合、自宅にいるとついつい家事に「逃げて」しまい、本来やるべきことが後回しになってしまうこともあります。そこで自分を追い込める場所をいくつか確保しています。近所のカフェや図書館など、お気に入りの場所があることが大切です。

(2)机の上の定位置を決める

いざ仕事を始める際には、机の上の定位置を決めています。たとえば飲み物は右奥、手帳はその手前(私は右利きなので右手でペンを持ち、手帳にメモするためです)、ノートや書類は真ん中、という具合です。なお、出先で作業するときはビジネスバッグのジッパーを閉じ、中身を見ないようにしています。カバンの中が見えて「あ、あの書類も読まないと」という具合に気がそれてしまうのを防ぐためです。「今、取り組むモノだけ」を出し、面倒でも一つの作業が終わるごとにカバンに戻し、次の作業を取り出しています。

(3)時計は見ない

以前私は机の上に時計を置いて作業をしていました。出先の場合は腕時計を取り外して目立つ所に置いていたのです。けれども最近は時計を見ないことに決めました。なぜなら作業の途中で「わ、あと10分しかない」「え~、まだ5分しか経ってないの?」など、時計を見るたびに集中力が下がってしまうからです。代わりに、その仕事に割り当てる時間をキッチンタイマーでセットします。ちなみにそのタイマーすらも見えないようにして、アラームが鳴るまではひたすら集中です。

(4)資料読み込みや読書時にデジタル機器は使わない

私の場合、コンピュータ接続環境下にいると、つい「ネット接続→メールチェック→ニュースチェック→ネットサーフィン」となってしまいます。そのため、あえてデジタル機器はオフにしています。自宅にはデスクトップPCがあるのですが、メールチェックの時間は一日3回と決め、それ以外はハードディスクごとオフにしています。オフにするのが難しい場合、せめて目の前の画面をオフにするだけでも集中できます。

(5)着手前の「儀式」

私の場合、まずは手先にハンドクリームを塗ってから仕事を始めます。これは作業中、ささくれや手肌の荒れが気になると、そちらに考えが行ってしまうからです。爪の長さが気になるならあらかじめ整えておく、髪の毛がうっとうしいなら束ねておくなども意識しています。

(6)独り言は手帳に書き込む

私はツイッターなどのSNSをしていないので、思いつきメモはすべて手帳の余白に書き込んでいます。そうした独り言はあくまでも自分自身のつぶやきですので、特に他人に周知したいという意識がそもそも私の場合は希薄なのですね。その代わり、公にするにはあまりにも稚拙なアイデアやつぶやきも、すべて手帳に落とし込みます。他人の目を意識しない分、自由に書けるような気がします。

(7)あとはひたすら集中!

状況が整ったら、あとはひたすら集中するのみです。私の場合、最近は45分間タイマーをセットし、鳴り終わったら15分ほど気分転換をするようにしています。これはPC作業であれ読書であれ、45分間同じ姿勢をしていると肩こりになってしまうからです。カフェにいるときは、手を洗いに行ったり、ゴミを捨てに行ったりなど、ひとまず席から立ち上がります。部屋の反対側に視線を移すだけでも、目の疲労回復になります。

いかがでしたか?あくまでも我流ですが、ざっとこのような感じで最近の私は取り組んでいます。ちなみにこの原稿を書く際にも、上記の条件下で記しました。今後も面白いアイデアがあれば取り入れたいと思っています。

(2017年2月6日)

【今週の一冊】

「大阪名所図解」 酒井一光他著、140B、2014年

先日、大阪へ日帰り出張した際、帰りの新幹線まで時間がありました。事前に大阪の観光マップを入手していたこともあり、地下鉄や徒歩でいくつかの名所を見ることができ、緒方洪庵の興した「適塾」や大阪証券取引所、中之島の中央公会堂を見学しました。

大阪は全く土地勘がなく、どちらかと言うと道頓堀やUSJ、あべのハルカスなどの方がイメージとしては先行していました。けれども実は歴史がとても古くからある街なのですよね。今回、適塾では当時の塾生たちがいかに苦労して医学や外国語を学んだかを展示物から改めて知ることができました。今のように辞書やインターネットなどない時代です。それでも高度な語学力や知識を身につけることはできるのですから、今の時代、「できない理由」をついつい口にしてしまうことを恥ずかしく思います。

今回ご紹介する一冊は、大阪の名所を図で表したものです。写真集ではなく、描かれているのは素晴らしいイラストばかり。建物全景を始め、柱の一部分や瓦屋根など、細部をクローズアップして描写しているのが魅力的です。本書は大阪から戻ってきてから読みましたので、事前に目を通していればもっと大阪の建築物を楽しめたことでしょう。

出版社の「140B」は大阪・中之島を拠点とする会社です。ホームページを見ると、創業は2006年。中之島のダイビルに入居しています。ただしこのダイビルは2009年に取り壊しが決まっており、期間限定でのテナントだったそうです。その時に借りられるオフィスが「138号室」か「140B号室」だったとか。「イヤミ」という音よりも「イチヨンマルビー」という音の響きが良くて選んだと書かれています。そしてそれが社名になったそうです。

本書を始め、関西関連の本を色々と出しており、いずれも興味深いタイトルばかりです。建築はもちろんのこと、政治やエッセイもありますので、ご関心のある方はぜひチェックしてみて下さいね。

Written by

記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

END