INTERPRETATION

Vol.59 「次の夢に向かって」

ハイキャリア編集部

通訳者インタビュー

【プロフィール】

ファリア・アンナ・マリエさん Farrier Anna-Marie

日本で生まれ、5歳から1年間イギリスにて過ごす。

帰国後日本のアメリカンスクールを経て米プリンストン大学英文学科に進学。

大学卒業後に翻訳・大学院在学中に通訳デビュー。

米国大学大学院で博士号を取得後にご結婚、ご出産を経て、

現在はフリーランス通訳者・翻訳者として様々な業種にてご活躍中。

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今日はアンナ・ファリア・マリアさんにインタビューをお願いしています。ファリアさんにはアパレル関係の通訳や、さまざまな分野の翻訳をよくお願いしていますが、こうやってじっくりお話しをする機会をいただいたのは初めてです。今日はよろしくお願いします

Q1、まず通訳者を目指すきっかけを教えてください。ファリアさんは翻訳も通訳も両方お出来になりますよね?

通訳のきっかけですか?最初大学院に入った時に、勉学の傍ら翻訳の仕事をやっていました。翻訳者を目指すというより、気がついたら翻訳をやっていたという感じです。ちょうどその頃友人から紹介をされて、生まれて初めて通訳を経験しました。当時NYに住んでいたのですが、フロリダまで飛んで日本の大手通信会社の仕事をしました。それが初めての通訳経験です。その後何度かリクエストをいただくようになりました。

Q2、お生まれは日本ですか?

私の父はアメリカ人なのですが、私は日本で生まれ、5歳の時にイギリスに渡りそこで英語を覚えました。一年後日本に戻った後は、18歳までアメリカンスクールで教育を受けました。日本の学校に通ったことは一度もありません。大学はアメリカのプリンストン大学に進学しました。卒業後東京大学で勉強し、その後また博士号を取るためにプリンストンに戻って、再度1年間国際交流基金の奨学生として、また東京大学に戻って研究をしました。博士課程を修了したのが、2007年です。大学院時代は研究と翻訳の仕事を両立していました。

Q3、企業に就職されたご経験はありますか?

いいえ、企業に就職したことは一度もありません。大学院卒業の1ヶ月後に結婚し、そのまま主人と一緒にパリに留学しました。楽しい結婚式にしたかったので、2ヶ月ぐらいで博士論文を頑張って書き上げました。(笑)主人がパリ郊外にあるビジネススクールに通っていたので、私は小さい頃からの夢だったお菓子を勉強しようと思い、「ピエール・エルメ」にスタージュ(インターン)といて参加しました。

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Q4、博士号を取った後にお菓子の勉強とは、本当に180度違いますね。

そうですね。私は小さい頃から料理が大好きで、大学院に進まなかったら、お菓子の勉強をしたいと思っており、日本でもお菓子作りの勉強をしていました。ピエールエルメに応募する時は、今までの博士号とか、通訳翻訳といったキャリアは全部伏せて、お菓子だけの履歴書を作りました。他に5人ぐらいスタージュがいたのですが、私以外はヨーロッパでお菓子のお店のパティシエの方だったんです。そんな中にポツンと入ったのですが、私だけちょっと異色でしたね。その後パリの「リッツ・カールトン」のお菓子学校にも通いました。半年後に日本に戻ってきたのですが、また主人の仕事の関係で4ヶ月後にNYに移りました。

Q5、NYでも通訳・翻訳の仕事をされていますよね?

はい、NYには約3年半滞在しましたが、滞在中はファッション関係の通訳や翻訳の仕事をご依頼いただきました。通訳も翻訳も基本的には独学で、学校に通ったことはありません。一度通訳学校に行こうかと思ったのですが、大学院に行くことになり、そのままになっています。

Q6、翻訳はどのような分野がお得意ですか?

得意というか、お料理の翻訳が一番楽しいです。今やらせていただいているのがメイプルシロップに関するレシピの翻訳ですが、とても楽しく仕事させていただいています。また私はよく広告やパンフレットなど広報・マーケティング関係の翻訳のご依頼をよくいただきますが、表現が難しいと思います。「ものを伝える」というより「雰囲気を伝える」ところに重点が置かれていて、直訳より意訳する必要があるからです。難しいと同時にやりがいもあり、上手い表現が思いついた時はとても楽しいですね。

Q7、通訳と翻訳の違いは何でしょうか?

まず翻訳は何度も推敲できますが、通訳は一発勝負なのでそこが大きく違います。また通訳では「あっ、実はそういうことだったんだ」と現場で気づく時がありますが、翻訳ではそういうことはありません。その場にいれば雰囲気も分かるし、気持ちまで訳すことが出来ますが、翻訳やメールのやり取りだけでは限界があります。そして通訳は翻訳とは全く違った難しさがあります。「人の個人的な表現の仕方」を訳すのは難しいと感じます。私はここ数年アパレル関係の仕事が多く、年に何度か同じ方の通訳をすることもありますが、技術的に難しいというより、その方の独特な表現を上手くデリバリーするのが難しいですね。通訳は「言葉を訳すだけじゃなく、場面を訳す」というのが大事だと思います。後気まずい場面や喧嘩になりそうな場面での通訳で、「ファリアさんが通訳者でよかった」と言われることが多く、そういう時は本当にやりがいを感じます。翻訳は通訳と違って全く相手が見えません。リアクションも通訳と比べると少ないですよね。性格的には通訳のほうが合っているような気がしますが、得意なのは翻訳のほうだと思います。

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Q8、大学の話に戻りますが、プリンストンでは英文学を専攻だとお伺いしましたが、具体的にはどういう勉強をされていたんですか?

英文学はゴシック小説(1800年代のビクトリア女王の時代)が専攻です。日本文学との比較を研究していました。日本文学は夏目漱石を専攻しました。ちなみに夏目漱石の作品の中では「虞美人草」が一番好きです。元々本を読むのが大好きで、私は文学には夢があると思っています。例えば小説を読んだ後、小説の映画を観ると大体がっかりしてしまいます。映画や漫画よりも活字が好きなんです。実は未だに漫画の面白さがよくわかりません。

Q9、ファリアさんはNYに渡られてから、マカロンのお店を出されましたよね?アメリカでお店を作るのは大変だと思いますが、そこに至った経緯を教えてください。

2008年、当時NYにマカロンのお店は1件しかありませんでした。「マカロンは小さくてカラフルなのでメールオーダーみたいなシステムで送れるのでは?」と思い、最初の1年半はネット販売でビジネスをスタートさせました。なるべくお金をかけずに起業したかったので、HTMLを勉強して、自作でHPを作成しました。その後アメリカで会社を設立しました。設立の手続きは州によって違い、最初は分からないことだらけでしたが、全部自分で調べて作りました。消費税などの税金も細かく分かれているのですが、直接機関などに電話で問い合わせしました。最初はネット販売のみでスタートし、3ヶ月間PR専門のスタッフを雇いました。ある日いきなりPRの人から電話がかかってきて、『明日dailycandy(200万人が購読しているネット誌)に掲載が決まった』というメッセージを受けて、私はちょうど1週間の通訳の仕事を受けていたので、大パニックになりました。当時はシェアキッチンを利用していました。最初は量が少なかったので十分回っていたのですが、dailycandyに掲載されてからは、今まで1週間に2箱だった注文が100箱(マカロン1000個)に急増し、そこで初めて人を雇いました。

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Q10、多分このころですよね?急にファリアさんからしばらく仕事が受けられないと連絡があって、『ファリアさん何やってるんだろう!?』ってみんなで心配していました。

注文も安定してきたし、ネットだけだとなかなか売り上げが伸びないので、実際に店舗を持とうと決心しました。小さい頃から自分のお店を持つのは大きな夢のひとつだったんです。それにシェアキッチンでずっと続けるのも限界でした。ただ出店に関しても、右も左も分からないことだらけでした。実際には店舗を建てるのに、設計士が必要になります。あとはお店を見つけた時点で契約書にサインをするときに弁護士さんが必要です。NYでは工事を途中で辞めてしまう業者などもいるので、気を付けなければなりません。マカロンは場所を取らないので、お店は大体40㎡ぐらいの広さでした。

Q11、開店までにどのぐらいの時間がかかりましたか?

お店を見つけたのが10月で、開店が3月です。お店の図面の許可が降りるまで4か月かかりました。私はちょうどその頃妊娠していたのですが、最終的にはコネを使って知人からNY州に電話を入れてもらい、『早く店を開けてくれないと赤ちゃんが生まれるから』と言って交渉してもらい、なんとか翌日に許可が下りました。工事も「赤ちゃんが生まれるから早くしてください」と言って、最後はみんな慌てて工事してくれました。お店が出来上がったのは、出産予定日の2週間前でした。お店は4人のスタッフでスタートしました。また私も出産2週間後には赤ちゃんと一緒にお店に出ていました。お客様に「ずいぶん小さな店員さんだね」と言われましたよ。

Q12、ファリアさんはお店の経営をされながら、通訳・翻訳の仕事もされていましたよね?

お店をやりながら通訳・翻訳の仕事をするのは、違うことをする楽しみがありました。現場でマカロンを焼いている時は楽しかったのですが、お店が大きくなると、現場の楽しい仕事は他の人がやって、自分は数字を見るとか、経営に関わる重要なこと、プレッシャーのある楽しくない仕事ばかり回って来るようになりました。たからこそ、まったく違う通訳・翻訳の仕事はとても楽しかったです。ただ時間には制限があるので、時間管理は工夫しました。翻訳は時間をかけようと思ったら、無制限にかけられますよね?私は最初に翻訳のご依頼をいただいた時に、内容と枚数をカウントして、必ず「この時間内でやる」決めることにしています。1時間に3枚(200ワード/1枚)が私のスピードです。それ以上時間がかかっている時は、スピードを上げるようにします。必ずしも時間をかけて訳した翻訳がいい翻訳だとは限らないからです。

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Q13、社員の人材育成はどのようにされていますか?

会社組織で働いた経験がないので、人材育成ではずいぶん悩みました。社員の長所を伸ばすと同時に、その人が全部出来る訳でないのでその部分も理解するように努めました。会社を設立する時は全部自分でやってきたので、最初は『なんでこの人は全部できないんだろう?』と不思議に思いました。ただ『その人がすごくよくできるもの』って必ずありますよね。そういう部分を引きだすようにしました。『この人は性格的にこまめにフォローしたほうがいい』とか『この人は自分でやりたいタイプだな』とか、相手に合わせた教育が難しいと思いました。経営者は社員の『モティベーションをあげる』のも仕事の一部だと思いますが、私は常にフィーバックをするようにしました。この部分はすごく通訳に似ていると思います。例えば現場でクライアントから「あなたの通訳は良かった。また頼みたい」と言われればモティベーションが上がりますよね?それと同じです。「お客様がこのお菓子は美味しいって言っていたよ」とフィードバックすれば、社員のモティベーションも上がります。上手くいかなかったことを注意する時も、最初に「ここは良かったね」と伝えてから注意するようにしています。

Q14、日本に2号店を出す予定は?(笑)

もうちょっと…待ちましょう(笑)今後は家族の仕事の都合でしばらく日本に滞在しますが、今考えているのは、ベビーシッターがいて子連れで参加できて英語も学べるようなお菓子教室をやろうかと思っています。

Q15、もしも通訳・翻訳者になっていなかったら、何をやっていたと思いますか?

多分「お菓子をやりたい」と思いながらも、アメリカの田舎の小さな学校で、大学の教授になって、漱石の授業をしていたと思います。実は去年、マカロンのお店に、ある大学の教授から面白い電話かかかってきました。『プリンストン大学のファリアさんですか?今、あなたの論文を読んでいるところなんだけど、今どの大学にいるのか気になって調べていたらマカロン屋さんをやっているって聞いたんですが、本当ですか?』って聞かれて(笑)『本当ですよ』って答えたら、マカロンをご注文いただきました。人生何が起こるか分かりませんね。

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編集後記

とにかくファリアさんは明るくて前向きな女性です。困難な問題が立ちはだかっても、「これは自分を成長させるチャンスかもしれない」と考えるという言葉がとても印象的でした。自分のお店を持つという夢をすでに実現して、次は何を目標にされるのでしょうか?今度是非ファリアさんのお料理教室に通いたいと思います。

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テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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