INTERPRETATION

Vol.66 人生を豊かにしてくれた経験

ハイキャリア編集部

通訳者インタビュー

【プロフィール】
犬飼 由美 Yumi Inukai
幼少期を海外で過ごす。大学時代に通訳コースを受講し、通訳の仕事に興味を持つ。大学卒業後は国際会議やイベントを企画・運営するコンベンション会社に就職。その後、大手外資系コンサルティング会社の秘書を経て、現在は外資系製薬会社の社内通訳者として活躍中。

Q1.本日はインタビューをお受け頂きありがとうございます!はじめに、通訳の仕事に興味を持ったきっかけを教えて下さい。
こちらこそありがとうございます。ハイキャリアの通訳者インタビューは、以前から読ませて頂いていたので嬉しいです!
私が通訳の仕事に興味を持ったのは、学生時代からです。別の学部だったのですが、現役で通訳をされていた教授の授業を受け、通訳の魅力にひかれ、将来は通訳者を目指したいと考えるようになりました。

ただその教授から、新卒で通訳を始めるよりも、一旦一般企業に入り会社の仕組みを知ってから通訳者デビューをしても良いのではとの助言を受け、新卒で一般企業に就職しました。では通訳者さんが活躍しているのはどこだろう?と考えた時に、国際会議!と思い、国際会議などを運営しているコンベンション会社に就職をして、会議運営の傍ら、通訳ブースで活躍している通訳者さんの姿を見て、モチベーションを上げていました。その後に、今度は外国人と働くのはどんな感じなのかと思い、外資系のコンサルティング会社に転職して外国人上司の秘書を経験しました。

そこで3年程勤務する中で、サイマルの同時通訳科を修了し、卒業のタイミングで通訳者になったという経緯です。

Q2.今までどのような企業で通訳の仕事を経験してきたのですか。
一番始めは飲料メーカーでした。秘書からの転職だったので、それまでビジネスに直接携わるという経験はありませんでした。ビジネスに関する知識が全くなく売上の話などになり、背景や考え方が身についていない中でとにかく必死に訳出するという状況でした。自分の中で「無知の知」を痛感し、唖然としたのを覚えています。

その後は眼科系医療機器メーカーでの仕事を2社経験して、現在は製薬会社で勤務をしています。 

Q3.医療分野での通訳経験が長いようですが、元々興味があったのですか。
たまたま眼科系医療機器メーカーでのお仕事が2社続いて、通訳を通じて自分の身体のことを知るって面白いなと思うようになりました。その後、製薬会社でのお話を頂き、医療分野を更に深堀してみたいなと思い現在に至ります。 

Q4.医療系の会社だと、手術に立ち会うこともあると聞いたのですが…
そうですね、眼科系医療機器メーカーにいた時は手術現場に入ることも何度かありました。目の前でドクターが手術をしている中、私も手術着を着てその状況を通訳する場面もありました。最初は緊張しましたが、意外と平気でした!眼の手術は眼球だけが出ていて、その他の身体の部分はシートを被せるのであまりグロテスクではないです。

眼の手術動画なども参考に見ますが、血はさほど出ないので気持ち悪くはならないです。

今は製薬会社に勤務しているので、手術現場の立ち合いは無いですが、患者さんがオフィスにいらしてお薬を服用して症状が穏やかになってきたという貴重なお話を通訳することもあり、医学の進歩はすごいと感じると共に、健康でいることの有難さや自分の人生についても考える機会が多々あります。

Q5.医療分野の専門的な知識の習得は、どのようにされているのですか。
まずはその疾患の基本を押さえようと、本屋さんでドクター向けの難しい本ではなく、イラストが付いているナース向けの関連本を買って読んだりしています。あとはNHKで放送されている「きょうの健康」という番組を見ています。一般の視聴者に向けて、癌や色々な疾患についてドクターが分かりやすく説明をしているので、それを何度も見て用語を調べたり、薬の効き方を理解したりしています。メモを取っていると、社内でこの言葉を使っていたな。あ、このことか!と点と点が繋がることが多々あります。

その他に、患者さんに向けて分かりやすく病気について説明が書かれた病院のホームページを読んだり、チームの方に質問をしたりして、地道に情報収集しています。

Q6.1日どれくらい勉強していますか。
日によって異なりますが、会議が無い時は出来る限り本を読んだり調べたりしています。正直、週末はやっていません!よほどのことが無い限り、オフィスを出た瞬間に通訳のことを忘れて過ごしています!

Q7.通訳をされていて大変だったことはありますか。
眼科系医療機器メーカーに入社して3ヶ月くらいの時ですが、製品に大きな問題が発覚し、急遽全社員を招集して外国人の事業部長が状況説明をするという場面がありました。突然のことで私も状況が全く分からず、何が起きているのか確認をしたかったですが、事前に聞ける雰囲気でもなく。とりあえず会議室に行って通訳をしたときは心臓が飛び出そうなくらい緊張しました。緊迫した雰囲気の中、一語一句間違えてはいけないけれど背景情報が無いので大変でした。そして翌日から各地の病院へ説明をする出張が入り、決して穏やかではないドクターを前に、正確に言葉を伝えなければという状況が続きました。あの時は辛かったですね。

私は前もってチームの方に資料をください、難しければ概要を教えてくださいとコミュニケーションを積極的にとるようにしているのですが、その時ばかりは無理でしたね。

Q8.通訳をされていてよかったことはありますか。
そうですね、医療分野の通訳を経験してよかったと思うのは、日本の医療現場を垣間見ることが出来たり、日々自分の身体の状態について考えるきっかけになったことです。今いる部署は血液・固形腫瘍の部署なのですが、癌に関わらず、あらゆる病気にかかってしまう前にセルフマネジメントをし、出来るだけ健康に気を付けることが大切だなと切に感じるようになりました。ストレスが病気に繋がるという事もあり、ストレスを貯めすぎないよう日々の生活に気を付けています。以前は通訳後も色々と考えたりしていたのですが、このような経験を通じて、なるべくオンとオフにメリハリ付けて、ストレスを軽減するように気を付けるようになりました。

Q9.メリハリをつけることは大切ですよね。何かリフレッシュのためにしていることはありますか。
最近やっているのが、瞑想です。アドレナリンが出て眠れないときは、5分でも10分でも瞑想をしています。色々なアプリがあるので、音楽を流がしてゆっくり深呼吸して…。そうしてアドレナリンを治めると少し落ち着くような気がするので続けています。あとはたっぷり寝ています!

会議が長時間にわたったときは、15分だけでもお昼寝をして頭を休めたりしています。緊張する会議の前はアロマオイルの匂いを嗅いだりもします。私もリフレッシュ方法が気になっていて、他の通訳者さんにどうやって疲れを取っているか聞いています!

Q10.カバンの中身も見せて頂いていいですか。
はいどうぞ!ペンとかノートとか、気が付いたらピンクだらけですね。メガネケースもピンクでした!3色ペンは持っている通訳の方が多いと思います。「医療翻訳者のための英語」という本は、結構使っています。付箋が付いているところがよく出る単語などで、医療制度の話は複雑で、よくチェックをしています。単語リストは以前の上司の口癖や社内用語などをまとめたものです。ビジネスに特化した用語もあり、今でも役立っています。

あとはチョコレート。気休めかもしれませんが、パートナーの通訳者さんと分けたりするといいコミュニケーションにもなって、お互いリラックスができるので。出張の時や移動の多い日は、栄養ドリンクをカバンに忍ばせています。朝に1本飲んで、お昼が食べられなかったり、昼食中も通訳をしないといけない時は栄養ゼリーを飲んで不測の事態に備えていました。




Q11.服装も気にされていますか。
社内はカジュアルなのでそれ程気にしていませんが、顧客訪問をする際はスーツです。以前の上司は早歩きの方だったので、付いていけるように高めのヒールからペタンコのパンプスに変えて走れるようにしていました!

Q12.インハウス通訳者の仕事の魅力はどのようなところでしょうか。
インハウスは部署の方々と一体感を持ってお仕事ができることが魅力ではないでしょうか。チームワークも求められるので、私はそういう部分が楽しいと思います。通訳者も部外者ではなくチームの一員として喜怒哀楽を共にすることで、製品にも愛着が沸き、もっと皆さんのためにサポートを頑張りたいと思うことができます。

Q13.今後の目標などあればお聞かせください。
今後は家庭とのバランスを取りながら働いていきたいと考えています。
一度、戦略系のコンサルティング会社で通訳をしてみたいという思いはあります。コンサルティング会社は、各業界の最新のビジネス情報を扱い、頭の良い方たちがロジカルにスピーディに話をされているという印象があるので、通訳者としてどこまで付いていけるか試してみたいです。

 

【編集後記】
通訳者は黒子でいなければならない反面、スピーカーと同様もしくはそれ以上の専門的知識が求められる仕事だと感じました。医療分野での通訳を経験する前は、病気で受診をした際、ドクターの診断を聞く「受け身」の状態でしたが、今では診療報酬明細書の点数や処方されるお薬の効果を詳しく調べるなど“医療”との関わり方や見方が変わったと仰っていました。努力家で非常に勉強熱心な犬飼さん。医療現場のディープなお話まで伺えて勉強になりました。

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記事を書いた人

ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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