INTERPRETATION

Vol.67 「好きなこと」を仕事にする

ハイキャリア編集部

通訳者インタビュー

【プロフィール】
福井 理穂  Riho Fukui
上智大学卒業後、イギリスとアメリカの大学院で修士号を取得。帰国後は「日本と世界をつなぐ架け橋になる仕事がしたい」と考え、日系大手精密機器メーカーのCSR推進部にて国内外の様々な取り組みに関わる傍ら、通訳や翻訳業務にも携わる。現在は大手テーマパークでのインハウス通訳者として勤務中。

Q1.インハウス通訳者としてご勤務を始めてから約1年が経ちましたね。今日は色々とお話を聞かせてください。
貴重な機会をいただき、ありがとうございます。
私はまだ通訳者としての経験が浅く、ハイキャリアインタビューに登場されてきた方々のような素晴らしい内容のお話はできないと思います。
しかし私自身、通訳者になりたいと考えた時にハイキャリアインタビューの記事を読み、色々な方々のご経験が励みになりました。私の経験も現在通訳者になりたいと考えている方々にとって、少しでも参考になれば嬉しいです。

Q2.現在は通訳者として、テーマパークの建設プロジェクトに携わっていると伺いました。思い切ってチャレンジをしてみようと思ったきっかけをお聞かせいただけますか。
元々通訳や翻訳の仕事に興味があり、それぞれスクールにも通いトレーニングを受けていましたが、私はシャイな性格のため通訳の仕事は向いていない、翻訳の仕事が私には合っているのではないかと勝手に思い込んでいました。一度は翻訳の仕事をしていこうと考え、翻訳チェッカーとしてテンナインで働かせて頂いていた時期もありました。しかし、テンナインから現在の仕事の紹介を受け、子供のころからずっと憧れていた企業であり、一番やりたかった通訳という仕事内容であったことから、迷いなく「挑戦してみよう!」と思いました。
実際に通訳の仕事をしてみると、学べることが多いだけでなく、人と接しているからこその楽しさもあり、今後も通訳の仕事を続けていきたいという気持ちに変わりました。

Q3.そうだったのですね!スクールにも通われていたとのことですが、どのくらいの期間通学をされていましたか。
逐次通訳のトレーニングが修了するまで約2年間、通訳スクールに通いました。
通学を通し、通訳の仕事はどういうものか、訳出しの方法など、基礎的な内容について第一線で活躍するプロ通訳者の先生方から学ぶことができました。
しかし日々の実践を通じてこそ、改善点など私自身の課題を認識することができたほか、自信にもつながっていったこともあり、現在は休学して仕事に集中しています。実践を通じてよりスキルアップができるように、そしてチームの皆さんのお役に立てるように、できる限りのことをしていきたいです。

Q4.「通訳者」として仕事を始めて、大変だったことはありますか。
前職では週に1回ビデオ会議での通訳を行っていたほか、メール翻訳などの対応をしていましたが、本格的に通訳の仕事をすることは今回が初めてです。
根本的な通訳スキルの面での大変さに加え、テーマパーク内での施設やアトラクション建設に関する会議の内容を通訳するため、建設関係の専門用語の理解や習得に大変苦労してきました。
例えば建築の納まりを表すときに、「勝ち・負け」という表現が使用されます。これは部材同士の接合部の位置関係を示すものですが、初めて聞いた際はすぐに意味を理解できなかったことを覚えています。
またインターネットで意味を調べづらい言葉や表現が出てきた際には、話者の方にまず日本語や英語でどういう意味か確認を取ってから訳出しをすることもあります。
電気設備やインテリア・デザイン、音響に関する会議など、どれも専門性が高く日々異なる分野の会議にアサインされるため、対応経験が少ない分野の会議に入る際は、いつも以上に入念に準備をします。
通訳者としての経験がまだ浅い私にとっては学ぶことが多く、勤務を開始してから約8ヶ月間は苦しい日々が続きました。今でも落ち込むことはありますが、日々の積み重ねにより少しずつ自信が付いてきました。

Q5.日々苦労されているのですね。事前準備や勉強法などについて教えて頂けますか。
今の会社で勤務を開始する前に「ひと目でわかる建設現場の英単語」という本を購入しました。実務で使用する用語が多く掲載されているため、この本には非常に助けられています。
また分野ごとに単語帳を作り、通勤途中に確認するなど、予習や復習を欠かしません。英語のスピーキングを改善するため、TEDの音声を聞きながらシャドーイングをすることもあります。自宅のみではなく、通勤途中もマスクをして、声は出さずに口パクで練習をします。それでもまだ勉強が足りていないと感じています。

Q6.同じ職場には、複数名通訳者の方がいると聞きました。目標とされる方もいますか。
はい、皆さんをとても尊敬しています!通訳者としての経験が豊富な方々は白熱した会議でも常に冷静に通訳をされていて、周りも落ち着きを取り戻すという場面があります。
建築関係の知識が非常に豊富な方もいて、その方の知識の量には驚かされますし、私も皆さんのような通訳者になりたい、そのためにはどうしたらいいのかと常に考えています。

Q7.先輩通訳者の方から通訳に関するアドバイスをもらうこともありますか。
先輩方には日々色々なアドバイスを頂きます。
先日の会議で、話者の方が「ぎりぎり何とかして達成しました」と仰っていた内容を、「達成しました」と結論だけを掻い摘んだ通訳をしてしまったことがありました。
早口な方の通訳で私も焦っていたのですが、「何とかして」という一言が抜けてしまうだけで、その方がどれ程苦労をされたのか、大切な部分が聞き手に伝えられていない。微妙なニュアンスですが、その一言が抜けることで後々会話の内容に大きな影響を与えかねないというご指摘を受けました。「細かなニュアンスまでくみ取れれば、さらに良い通訳者になれます」という先輩の言葉は、今も心に残っています。

Q8.先輩方のアドバイスを受けて、気を付けていることなどはありますか。
私は人一倍緊張をする性格のため、勤務開始当初、一緒に通訳に入った先輩から「メモを取る手だけではなく、声までも震えている」と指摘を受けました。私が震えた声で通訳をしていると、話者や聞き手が不安になり、正しい通訳をしていても相手に悪い印象を与えてしまうから堂々としなさいというアドバイスをいただいたのです。
そこで緊張を解く方法として、人前でスピーチをする際の対策本や落ち着きを取り戻すための呼吸法に関する本を読むことで、パフォーマンスが改善していきました。

Q9.建設現場ならではの大変さもありますか。
夏や冬は気候の面での大変さもありますし、建設途中の現場に入っていくため、危険もあります。そこでヘルメットに長袖長ズボン、安全帯を付けるなど完全装備で現場に向かいます。現場での通訳は立ち仕事であるが故、体力面での大変さはありますが、会話の対象物を目の前にして通訳をすることが出来るため、通訳者としての経験が浅い方でも比較的通訳をしやすい環境なのではないかと感じています。
また、私たち通訳者のことを考え手厚くケアをしてくれる企業のため、それほど辛さは感じていません。

Q10.通訳の仕事の魅力はどのような部分だと思いますか。
通訳の仕事は、専門用語の習得や技術面の向上など、「学ぶべきことが非常に多い」という面での大変さや辛さがあります。また話し方などパフォーマンスを良く見せるための自分磨きも必要です。
しかし学び、成長できることこそがこの仕事の魅力だと私は思います。ひとつの分野だけでも日々新しい発見があり、学ぶことが尽きません。
通訳者としての仕事を介して、私個人では成し得ることができなかった事や様々な業種、業界の仕事を垣間見ることが出来るというのは非常に興味深いです。

Q11.通訳の仕事を始めて、ご自身で変わったと思う部分はありますか。
知的好奇心が以前よりも増したのではないかと感じています!全く異なる業界で働いている友人の話も、今後私が通訳をする際に役立つかもしれないと、様々な事が身近に感じるようになりました。「ザ!鉄腕!DASH!!」というテレビ番組では、TOKIOのメンバーが自分たちの力で一から家などを建てていますよね。実はその番組中では、普段私がよく耳にする建築関係の用語が出てきます。専門用語が出てくると自然と英語に変換したり、初めて聞く用語は気になって調べたりするなど、テレビの見方も変わってきました。

Q12.休日はどのように過ごしますか。
休日は映画を観たり、愛犬のステラと散歩に出掛けたりして癒されています。
元々私は就業している企業の映画などが好きで、プライベートでも多くの作品を見てきました。関わっているプロジェクトで映画の世界観を細かく再現することが求められることも多い中、日頃得てきた背景知識が役立っていると日々感じます。楽しみながらやってきたことが、仕事に活きることはラッキーです!

Q13.「好きは仕事にしない方が良い」という意見もありますが、いかがでしょうか。
私も入職する前は同じ不安を抱いていました。しかし実際に憧れていた企業で勤務をしてみると、全くそのようなことは感じません!それよりも、今までは何気なく見ていた景色が、実は色々な方々の努力が合わさって完成したものだと分かり、尊敬や敬意の思いがこみ上げてきます。通訳をする上で大変なこともありますが、好きだからこそ「頑張ろう!」と原動力に繋がっています。
現在私が携わるプロジェクトも、もうすぐ終わりを迎えるため、今からチームのみなさんと感動を分かち合える日が楽しみです!

Q14.最後に、現在通訳者を目指している方へのメッセージをおねがいします!
私は過去に通訳者としての道へ進むことに勇気が持てず、諦めたことがありました。
その結果、通訳として働き始めるまでに3社で就業してきましたし、一見遠回りをしたようにも感じます。しかし、今までの経験があるからこそ、大きなプロジェクトを成功させるために必要な工程や、様々な立場で働く方々の役割、そして苦労について、理解することができる部分もあります。過去の経験が現在通訳をする際にも活きているため、無駄な経験は一つもなかったと思います。
現在通訳者を目指す皆さんの中にも、悩みや不安を抱えている方がいるかもしれません。
しかし焦らずに一歩一歩進んでみてください。信念を持ち努力し続ければ、必ず思い描いた目標地点に到達することが出来ると思います。そしてチャンスが来た際には、勇気をもって挑戦して頂きたいです!私もまだスタート地点に立ったばかりですが、一緒に頑張っていきましょう。

 

【編集後記】
インタビュー中、とても楽しそうに目を輝かせながら仕事のお話をしてくださいました。
不安に押し潰されそうになることがあっても、プロジェクトメンバーの一員として役に立ちたい、先輩方のような通訳者になりたいという強い思いを持ち、真っすぐ前を見据えている姿が印象的でした。これからも頑張ってください!

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記事を書いた人

ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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