INTERPRETATION

Vol.68 フリーランス通訳者になるまで

ハイキャリア編集部

通訳者インタビュー

【プロフィール】
木村 瑞子Yoshiko Kimura
ファッション業界で幅広く活躍する中、通訳の仕事に興味を持ち、サイマルアカデミーで通訳のトレーニングを受ける。2016年に同時通訳科を卒業後、社内通訳者として第二のキャリアをスタートさせ、今年からフリーランス通訳者として活動中。

Q.1木村さんは最近派遣契約の社内通訳者からフリーランス通訳者になられたと伺いました。いつからフリーランスになることを視野に入れていたのでしょうか。
フリーランス通訳者になることは、サイマルの同時通訳科を卒業してから考えていました。しかし社内通訳者として経験を積んでからフリーランスになった方がいいとの周囲の意見もあり、卒業後すぐにフリーランスにならず、社内通訳者として4~5年ほど経験を積みました。また並行してフリーランスの案件を受け、ある程度基盤ができ、フリーランスになっても仕事を続けていけると自信がついてきたタイミングでフリーランスになりました。

Q.2では、フリーランス通訳者に転向する以前のお話も聞かせて下さい。派遣契約の社内通訳者としてご活躍される以前は、正社員の雇用形態で通訳者として勤務をされていましたね。正社員から派遣社員になることへ不安はありましたか。世間的には派遣社員は不安定な印象もあるかと思います。
社内通訳者としての経験が全くない中で派遣社員になっていたら、うまくやっていけるのか不安があったかもしれません。しかし私は正社員で勤務していたファッションブランドで、社内通訳者として2年ほど経験を積むことができました。そこで「通訳者として仕事をしていくことができる」とある程度自信を付けることができたため、契約形態が派遣に変わることに対する不安はありませんでした。また派遣社員として勤務をした会社が生命保険会社で、事業目的や企業としての基盤がしっかりとしていたため、不安はありませんでした。

Q.3専任の社内通訳者になる以前から、別の担当業務がありつつも通訳も業務の一環として対応されていましたよね。その時点で既に通訳経験は豊富だったかと思います。専任の「社内通訳者」として経験をしなくとも、そのまますぐにフリーランス通訳者になることは考えていませんでしたか。
長年勤めていたファッションブランドでは、社内通訳者になる以前から、必要に応じて様々な会議やアテンド通訳に対応していました。社内の方からは感謝もされていましたが、それは「通訳者」としての評価ではなく、英語のできる社員としての評価です。私自身も通訳学校で習ったことが実践できて嬉しいという感覚でしたので、フリーランス通訳者になるための経験としては到底及びません。

そのあと同じ企業で社内通訳者として経験が積めたことも自信になりましたが、通訳スキルだけで私を評価し、受け入れてくださったのは、派遣で勤めた生命保険会社が初めてです。全く未経験の業界で勤務開始当初は苦労しましたが、満足のいくパフォーマンスができるようになり、お客様からも良いフィードバックを頂くことができた経験はより自信になりました。資料に書かれていない内容を通訳する咄嗟の対応力や、大勢の方の前で通訳をするなど、精神面でも鍛えられたのは社内通訳者を経験したからこそで、すぐにフリーランスにならず良かったと思います。

Q.4フリーランス通訳者になる前に「経験しておけばよかった」と思うことはありますか。
幸いにも思い残すことはありません。社内通訳者として最後に勤めていた生命保険会社では、テンナインのコーディネーターが「フリーランス通訳者になりたい」という私の希望をお客様に上手く伝えて下さいました。そのお陰で、後任の育成にも協力をさせて頂き、生命保険会社の仕事を優先することを前提としながら、タイミングを見てフリーランスのお仕事を少しずつ受けさせて頂きました。実績を作りながら次第にフリーランスに移行することができことは、かなり特殊な状況であったと思いますが、私の希望をかなえて下さったお客様とテンナインのコーディネーターには大変感謝しています。

Q.5フリーランス通訳者になって大変だと感じることはありますか。
やはり準備がとても大変です。私はまだフリーランスとして働き始めて間もないため、通訳者として対応をしたことのない業界が多く、まずはその業界についての基礎知識から勉強をする必要があります。そのあとに頂いた資料を解読するため、準備の時間を加味してスケジュールを組まないとパフォーマンスに支障が出てしまいます。しばらくはスケジュールに余裕を持ち、しっかりと準備をした上で当日に臨み、着実に実績を積んでいくことに重きを置いています。準備のための勉強は非常に時間が掛り大変ですが、今が頑張り時なのかもしれません。

Q.6今まで経験した中で、最も大変だったお仕事はありますか。
総合化学メーカーでの通訳は非常に大変でした。ホームページを見ても、石油や繊維素材、医療や農業など、非常に幅広い業界と関りがあり、かつ専門的な技術内容も含まれます。その企業にて、専門家の方を交えた社内会議の通訳をした際は、資料も多く事前準備の段階から心が折れそうになるほど大変でした。また現場でも普段聞きなれない専門的な内容の話が続いたため、訳出しに苦労しました。

Q.7普段どのような勉強をされていますか。
とにかくたくさん本を読みます。通訳学校では「勉強しない通訳者はだめだ、通訳者に知らないことがあってはいけない」と教えられるため、通訳をする企業に合わせてピンポイントで勉強するのではなく、マクロな視点から情報を収集しています。例えば日本の経済状況や各国の情勢、業界全体の情報など、通訳をする上では基礎知識として理解しておく必要があります。また専門家や企業のトップの通訳をする機会が多いため、知識人が選びそうな本や雑誌を選んで日常的に読書を行っています。

通訳学校の先生方は非常に熱心に「プロの通訳者になるために必要なこと」を教えて下さり、教えて頂いた勉強法などその全てが現場で役立ちます。

また先生方の通訳を聞くと「本当にすごい」と尊敬しますし、教えに忠実に従い努力を積み重ねれば、いつか私も先生方のような通訳者になれるのではないかと思うと、勉強も頑張ることができます。

Q.8日々の努力の積み重ねがパフォーマンスに活かされているのですね。
勉強も仕事のうち、当たり前のことと思って取り組んでいます。

通訳学校で授業を受けると、初めはうまく訳出しができず苦労しますが、きちんと勉強をして訓練を積めば、次第に訳出しができるようになります。すると「もっと上手くなりたい、通訳をしたい」という気持ちになり、のめり込んでいく感覚がありました。その感覚はどのような仕事に就いているかに関わらず、皆さんも経験をしたことがあるのではないでしょうか。

意志の強さと通訳の仕事が好きという気持ちがなければ続けることが難しいかもしれませんが、通訳が非常に特殊な仕事だとは思わないでください。

Q.9他の通訳者の方と組む際に気を付けていることはありますか。
私はまだ経験が浅く、初めて現場に入る企業が多いので、パートナーの方の通訳スタイルに合わせるようにしています。例えば何分で交代するか時間の計り方が企業や通訳者の方によって異なることがあります。同時通訳で日本語の部分のみ訳して欲しいというご依頼の場合、タイマーで時間を測るのですが、通訳が不要な部分もタイマーを止めずに計測し続けることがあります。どのように計測しているかは通訳者の方しかわかりませんよね。そのことを私が知らず、パートナーの方のパフォーマンスに影響が出てはならないので、お互い気持ちよく1日を過ごせるように、事前に通訳スタイルの確認を取るようにしています。

Q.10今後挑戦してみたいことなどはありますか。
通訳の仕事とは少しかけ離れますが、実は通訳学校で講師をすることになりました。通訳者を目指す方へ向けた第一段階のクラスになりますが、講師としてしっかりと努めたいということが、すでに始まった新たな挑戦です。

通訳学校を卒業するまでにはいくつかの段階があり、順調に進んでも卒業するまでに3年はかかります。しかしいつか教え子の方と一緒に通訳者として組むことがあれば素敵ですし、通訳者を目指す方の力になれれば嬉しいです。

Q.11フリーランス通訳者を目指す方へ、是非アドバイスをお願いします。社内通訳者の方では、将来的にフリーランス転向を希望している方も多いかと思います。
フリーランス通訳者のお仕事は、事前準備や勉強が大変ということはありますが、日々異なる企業に伺い様々な業界の仕事に接することができるため、とても刺激的です。また女性はライフスタイルの変化に合わせて自由に仕事のスケジュールを組むことができますし、好きな「通訳」の仕事でキャリアを積み続けることができます。また一緒に組むフリーランス通訳者の方も皆さん勉強熱心で刺激を受けることが多いため、毎日が新鮮かもしれません。

しかしフリーランスという働き方は、まだ社会的地位が脆弱なため、メリットやデメリットについてしっかりと理解をし、フリーランスという働き方を選択する必要があると思います。自身のパフォーマンスが仕事の増減に影響するため、社内通訳者とフリーランス通訳者、どのような働き方がご自身に合っているのか考えた上で、是非挑戦していただきたいと思います。

 

【編集後記】
今回のインタビューでは、通訳者にとって事前準備がどれほど大変か、そのために会議資料がどれほど大切かということを改めて認識させて頂きました。
また勉強方法についても詳しくお話をしてくださり、記事ではすべて紹介ができませんでしたが、愛読書もたくさんお持ちいただきました!
いつも心のこもった対応をしてくださる木村さん。温かなお人柄は通訳のお仕事でも感じることができ、弊社のコーディネーターも木村さんには大変助けて頂いています。
通訳学校の講師としての新たな挑戦も頑張ってください!

Written by

記事を書いた人

ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

END