INTERPRETATION

Vol.45 「死ぬ日まで通訳でいたい」

ハイキャリア編集部

通訳者インタビュー

【プロフィール】

町田公代さん Kimiyo Machida

 幼少時代をトリニダード・トバコ国で過ごし、中学入学に合わせ帰国。東洋英和女子学院短期大学英文学科卒業後、米国イリノイ州Monmouth Collegeに編入、国際関係学を専攻する。同大学卒業後、帰国し国内メーカーに就職。在職中に通訳業務をはじめる。通訳者を目指し、退職、通訳学校に通い、インハウスを経てフリーランス通訳者となる。現在も幅広い分野にて第一線でご活躍中。

Q.語学との出会いはなんですか?

 小学校時代に丸々6年間海外で過ごしたので英語はその時に自然に身につきました。ただ、中学校の入学に合わせて帰国し文法から学び始めた時は逆に難しかったですね。それでしっかりと英語を勉強し直そうと思い、高校・大学と英文科に進みました。実は大学に進学する前は、美術系の大学を目指していたんですが、同じ美大を目指していた友達が毎日学校の後に美術の先生の塾に通い、一日一枚油絵を描いているのを見て、私は趣味の程度にしておこうと踏みとどまりましたね(笑)。

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Q.通訳者を目指し始めたのはいつごろですか?

 大学で留学をした時、ただ漠然と国と国との橋渡しになる様な仕事に就きたいと考えていました。そのためにはお互いの国の事を知っておかなければいけないと思い国際関係のコースを専攻しました。ただ、その時はまだ通訳という仕事がある事すら知りませんでした。大学卒業後、帰国してから日本のメーカーに就職しました。たまたま営業の方が海外のお客様が来日にともない通訳が出来る人を探していた時に、帰国子女で大学留学の経験もある私にいきなり役がまわってきたんです。その時に初めて通訳を経験して、仕事より通訳の方が楽しいなと思いました。結局2年で会社をやめ、すぐに通訳学校に通い始めましたね。

Q.本格的な厳しい通訳の勉強を始めて感じられた事は何ですか?

メーカー勤務時代の通訳はプロとしてではなく、ただ英語が出来るからという範囲で通訳をしていたので、正直まだ気が楽でした。通訳学校で学ぶことはプロとしての通訳なので、普段は英語・日本語を使えるのに何でこれが訳せないの??と思うようなことが沢山ありましたね。そこで、訳すということがどれだけ難しいかが初めて分かりましたね。挫折ばっかりの厳しい勉強でした。ただ、難しいけど面白かったです。どんなに厳しい勉強でも楽しかったのでやめようとは思わず続けられましたね。

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Q.インハウスからスタートされて今までの道のりを教えてください。

ご縁があってエンターテインメント関係の会社のインハウス通訳から始めました。インハウスは内容を把握し、経過をたどりながら訳せるので駆け出しの私にはとてもいい勉強ができる環境でした。また、インハウスの良いところは、全く経験がなくても成長を見込んで雇ってくれるところです。ただ、ある程度いると逆に学ぶことがなくなってきて、だんだん物足りなさを感じるようになりました。丁度そろそろフリーになりたいなと思っていた時に、フリーのお仕事の御誘いを頂きました。フリーの場合は、どこの馬の骨まも分からない人が今日は宜しくお願いします!と来るわけですから、お客様に「本当に出来るんだろうか・・」と不安にと疑いの目で見られる事が多いです。その環境の中で仕事をする事は物凄い緊張感がありますが、私はそれが凄く好きでした。これがプロの世界なんだ~と肌で感じて感動しましたね。

Q.仕事の厳しさ・遣り甲斐を教えてください?

 通訳はサービス業ですから、勿論資料が全て揃うことがベストですが、完璧に揃うようなパーフェクトな環境はありえないと思います。だからこそ与えられた環境でベストを尽くすしかないですよね。それでも勿論出来るでしょ?と思われるのがフリー、プロの立場だと思っています。

遣り甲斐と大変さは紙一重です。特定の分野に問わず幅広い知識をつける勉強は終わりがありませんし、その時のお客様・スピーカーの方により求められる通訳は異なります。

例えば、通訳をする相手が英語を母国語としない人だったら、自分の考えるスマートな訳をするのはただの自己満にすぎません。一番適切な言い回し・訳でなくても、その人達が分かりやすい訳をする為には、文章を切ったり、崩してでも相手の分かりやすい英語に変えて、その方達が確実に分かってくれる様な訳を心掛けなければいけません。

また、スピーカーには淡々と話す人もいれば、インタラクションを求めて会場を盛り上げようとする人もいます。その人の気持ちや態度を出来る範囲でくみ取ってうまく訳せるかが難しければ難しいほど遣り甲斐を感じますね。

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Q.今でも記憶に残る様な失敗談はありますか?

 失敗は結構ありますけど、いつもころっと忘れてしまいます(笑)。

一つ覚えているのが、まだ駆け出しの時に略語の多い会議を対応した時の事です。日本人の方が「エンビ」という言葉を頻繁に使われたので、私はてっきりそれも略語だと思い、半日くらいずっとMB、MBと訳してました。終日のお仕事だったので、お昼休憩に入った時、外国人の方から、ところでMBってなんだ?と聞かれたのでびっくりして、ようやく担当者にMBって何ですかと確認しに行ったんです。そしたら、あ~「塩ビ」だよ!塩化ビニールの略だよと言われたんです。それで外国人方に事情を伝え、やっと納得してくださいました(笑)。もっと早く言ってくれれば良かったのに、と言ったところ、もう少し聞いていればそのうち分かってくるかと思って・・と言っていました(笑)。のんきな方で本当によかったです。思い込みは本当に怖いなと実感しました。失敗は普段から山程ありますし失敗した後は落ち込みますけど、後々必ず為になりますからね。

Q.町田さんの趣味はなんですか?

料理が好きで、今は「ゆるベジ料理」にハマっています。最初はダイエットをしようと思ったんですが、食べないと健康的によくないと思い調べたら「ゆるベジ料理」に出会いました。普通は元気がないからお肉食べよう!となりますが、その方が逆に次の日疲れるみたいです。よく考えると草食動物の方が持久力がありますしね。ライオンは狩りをする時に瞬発的なエネルギーがありますが、後は寝てますよね(笑)。それいと同じ事なんだと気付きました。あとは、一日30分~1時間は歩くようにしています。飽きっぽいので、習い事は続かないんです(笑)。荷物が少ない時は家から会場まで歩いたりしますね。ある程度運動していた方が体調もよいので。

Q.通訳を目指されている方へのアドバイスをお願いします。

最初はきちんとした日本語からきちんとした英語へ、言葉を忠実に訳すという事が大切ですが、それ以上にどれだけ相手の気持ちや意図をくんであげれるか、意識してやっていくのかが大切だと思います。背景知識もとても大事なことなので、面倒くさがらずに勉強する事が大切です。色々ありますが、自分がその現場で何を要求されているのかを把握してあらゆる場面で臨機応変に対応できるように、何事も避けずに経験を積んでいくことが大切だと思います。どんな知識・仕事・経験でも必ずどこかで繋がりますからね。

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Q.最後に、町田さんの夢を教えてください。

この仕事がすっごく好きで、出来れば死ぬ日までやりたいです。それくらい長く続けたいと思います。私は飽きっぽい性格なのですが、通訳はこれをやったら安心できるというのがないんです。つきることがない、終わりが見えないのが何よりもの魅力です。

編集者後記:

今回のタイトルにもなっていますが、最後におっしゃった、「死ぬ日まで通訳でいたい」という言葉が本当に心に響きました。実は「ゆるベジ料理」以外にも、化粧品・ヨガなど沢山の魅力的な情報を頂きました。町田さんに言われるとどんな以外な事でもとても説得力があり、そこはしっかりとメモを取らせて頂きました。町田さんの底知れないパワーと素敵なお人柄にたっぷり1時間触れることが出来、本当に貴重な充実した時間を頂きました。有難うございました。

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ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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