INTERPRETATION

「マルチタスキング」

木内 裕也

Written from the mitten

 最近の現象ではありませんが、日本以上にアメリカではMulti-Tasking(マルチタスキング)という言葉を耳にすることがあります。1度に複数のことを行うことを指す言葉です。例えば食事をしながらTVを見る、というのもマルチタスキングの1つといえるでしょう。一方では色々なことを同時にするから効率がいい、と言う人がいます。しかしもう一方では結局1つのことに集中できないから、効率は下がるという人もいます。最終的には個人差があるのでしょうが、少なくとも「自分はマルチタスキングをしたほうが効率がいい」と信じている人の数は増えているように思います。

 例えば携帯電話と運転もそうです。アメリカの場合は州によって携帯電話の使用制限が違います。ミシガン州では片手がハンドルを握っていれば、携帯電話で話をしながら運転をしてもよいことになっています。ニューヨーク州などは厳しく、運転中の携帯電話での通話は禁じられています。先日カリフォルニア州で発生した電車事故で、運転手が携帯電話のメールをしていたのが事故につながったのではないか、という疑問が投げかけられていることからもわかるとおり、携帯電話が集中力の妨げになるのは否定できないように感じます。しかし通話どころか、両手を使って先週のブログで書いたBlackberryのキーボードでメールをしている人もよく見かけます。友人の1人がよく運転しながらメールをしているのですが、なぜか上手に膝を使ってハンドルを操作しています。

 ワイヤレスのインターネットカードを使用して、自動車で移動中にインターネットをする人もいます。友人の1人は自分の自動車の中に無線LANの環境を構築している人もいます。確かに複数の人と長距離移動をする際、車内でインターネットにアクセスできると暇つぶしにもなりますし、やり残した仕事を終えることもできるでしょう。しかし自家用車の中に無線LANを構築するというのは想像すらしませんでした。

 仕事と遊びの境界線が薄れるのもマルチタスキングの影響の1つです。近所に住む友人が1日中サッカーだけを放送しているケーブルチャンネルを購読しているので、彼の家に遊びに行くことがあるのですが、彼は大抵パソコンに向かって仕事をしながら、同時にTVでサッカー観戦をしています。特に集中を必要としたり、深く考えなければいけない仕事をしているわけではないようですが、それでもあまりマルチタスキングが得意ではない私にとっては、器用に複数のことをこなしている姿を見ると感心せざるを得ません。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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