INTERPRETATION

資料の集め方

木内 裕也

オリンピック通訳

前々回の記事では、知らない競技の担当になったらどうするか、という話をしました。今回もそれに似た内容です。

実際に会議通訳者として仕事をしていると、金融や企業買収の話は沢山あっても、スポーツの話は非常に少ないです。普通に生活をしているとスポーツのほうがよほど金融や企業買収より会話のネタになりそうですが、通訳という仕事の場ではそうではありません。また、スポーツには詳しくても、すべてのスポーツに詳しいという人は非常に数少ないです。ですから、やはり慣れないスポーツの仕事が舞い込んできて、それにどう対応するかは、どの通訳者にとっても大切です。

そんな時に、どう資料集めを始めればよいでしょうか? 私にも得意な競技はありますが、あまり詳しく知らない競技もあります。駆け出しのころ、あるメジャーリーグ選手の通訳をして、「強肩」をそのままShoulderと訳したら、「Armって言うんだよ」と教えていただいた(直された)、今となっては苦い思い出もあります。

私が慣れない競技で通訳を依頼された際、いくつか最初に調べる内容があります。1つ目はルールや競技規則。その競技の枠組みとなる部分です。「サッカーでは手を使ってはいけない」「野球では塁を回る」「ラグビーでは前にパスできない」など、基本的な内容を理解できるだけではなく、公式の用語を知ることができます。用語集の作成は、基本的に競技規則から始めます。以前の記事も書きましたが、公式の用語以外を使う選手や関係者もいますが、通訳者としてはきちんとした用語を把握してそれを使いたいものです。最近ではこの様な文書はインターネット上に出ていますから、簡単に入手可能です。

次に頼りにするのが、書籍。アマゾンなどのオンラインのサービスでも良いですが、人気のスポーツであれば、入門書が何冊か書かれている場合があります。「誰でもわかる○○」の様な本です。これらの本で基本を学ぶことも大切です。

ある個人のスポーツ選手の通訳をする場合には、その人が所属したチームや対戦した選手の情報が大切です。大会で通訳をする場合には、その大会に選ばれた選手の情報が必要です。これらも「自分がファンだったら、この選手や対戦相手について、どんなことは基本情報として知っているかな?」と想像してみるとよいでしょう。

次に考えるのがシチュエーション別の対策です。試合後のインタビューの通訳をする場合、もしかすると過去の試合のインタビューがインターネット上で見られるかもしれません。スポーツ選手に雑誌がインタビューする場合、似たインタビューを他の雑誌がしているかもしれません。これらの情報も非常に有効な事前情報になります。

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記事を書いた人

木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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