INTERPRETATION

機敏性に富んだグッズ

木内 裕也

オリンピック通訳

スポーツの現場で通訳をすると、駆け出しの頃に多く経験した工場見学通訳を思い出します。工場見学の通訳は機械などの騒音が多く、ヘルメットをかぶったり、クリーンルームであればガウンを羽織ったりします。またあちらこちらに動き回って通訳をすることも多いです。スポーツ会場での通訳はそれと似ています。ヘルメットをかぶることはなくても、「動きやすい靴は必須です」と伝えられることは少なくありません。場合によっては一緒に練習会場に行くこともありますから、「できればジャージでお願いします」と依頼を受けたこともあります。選手や指導者など皆ジャージで、自分だけスーツというのもおかしなものです。

一緒に運動をすることはなくても、工場見学以上に歩き回ることは多いです。そうすると、大きなカバンに資料を入れてそれを持ち歩くことは現実的ではありません。メモ取りのノートも、A4やB5サイズの紙ではなく、速記用ノートなどが良いでしょう。パートナーと交代する時間を計測するストップウォッチ(キッチン・タイマー)も、首に掛けられるように紐を付けておくとよいでしょう。どうしても手元に用語集を持っておきたい場合には、小さなフォントサイズで印刷したメモを1枚忍ばせることもできます。ポストイットを利用して、メモ取りのノートに貼り付けてもいいでしょう。

周囲の音も気になります。競技会場であればファンの歓声が聞こえてきます。記者会見場で簡易ブースも無い環境で同時通訳をすることもあります。そうすると記者が咳をしたり、パソコンのキーボードを操作する音が聞こえてきます。目の前でTV用の大きなカメラを移動させたりしていると、気が散ってもしまいます。決して国際会議の様な理想的な環境ではありません。

このような状況での通訳がどうしても多くなるのがスポーツの現場での通訳です。従って、そのような状況でも対応できるような用具の準備が必要です。既出の通り、首に掛けられるようにしたタイマーや、小さめのメモは役に立ちます。大きなカバンは控室に置いたまま何時間も仕事をすることもありますから、せめて貴重品くらいは携帯ができるように、小さなかばんを用意したり、ポケットの数を確認しておくこともよいでしょう。男性用のスーツはポケットがあちらこちらについていますが、女性用の洋服はポケットが少ない傾向にあります。現場で困る前に1度確認しておくとよいでしょう。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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