INTERPRETATION

夢を与えるアスリート

木内 裕也

オリンピック通訳

アスリートの話を通訳していると、戦術の話や記録の話など、その競技の詳しいことを知っていないと訳すのが難しいものの、わかっていれば単語を追うだけで訳せる内容のものだけではなく、競技の詳細を知っている必要はないけれど、抽象的な話で訳しにくいものもあります。後者の分類に入るのが、大会に望む選手や優勝した選手に対するインタビューで、「子どもたちに夢や希望を与えたい」とか「地元の誇りになる結果を残したい」というもの。ビジネスなどで通訳ばかりしていると、なかなかこのような表現に出会うことは少ないですから、いきなり訳すとなると、ありがちなHopeやProudだけしか頭に浮かばない、ということにもなりかねません。

選手が「子供の頃から夢見ていた場所」ということを言えば、I have always dreamed of being here.などと言ってもいいですし、Magicalなどの表現を使ってもいいでしょう。もちろん、夢がかなった、ということであれば、Achieveも使えますし、My dream has finally come true.も使えます。受験英語でAchieveの同義語はAttainと学んだ人もいると思いますが、あまりスポーツの世界で聞かれる単語ではありません。

「誇りに思う」という内容のコメントであれば、I am very proud of myself.と自分の好成績を誇りに思うと言う選手もいるでしょうし、I am very proud of my teammates.のように、チームメートに対するコメントをする選手もいるでしょう。大会に向かう前の選手であれば、I want you to be proud of me.などといったコメントもあるでしょう。また、I want to thank ….と家族や関係者の名前に言及して感謝の気持ちを伝える選手も多くいます。

4年、もしくはそれ以上に渡る努力の成果が実った場合、「なんと言えばいいのかわかりません」というコメントも多くありますね。I don’t know what to say.とそのまま訳してもOKです。I can’t find a word to describe how I feel.でもいいですね。I am so overwhelmed with emotion.やI am so overwhelmed.のように、Overwhelmを使うこともあります。

また、試合を見ていた子どもたちにも自信を持ってもらいたい、というときなどにはI want young athletes to believe in themselves.などのように、Believe inをつかうことも。Don’t let anyone tell you you cannot achieve your dream.などのようなコメントも耳にすることがあります。

ビジネスなどの分野ばかりだとあまり訳すことのない表現で、表現自体は特に難しくなくても、突然言われると訳が硬い表現になってしまうことがあります。そうすると、訳は正しくてもシチュエーションに合わない訳になってしまいますので、その点にも気をつけることが大切です。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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