INTERPRETATION

優先順位のつけかた

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 以前どこかで読んだ本で、「人間は一日に6万回思考する」という文章がありました。つまり私たちは毎日たくさんのことを考え、選択肢の中から最適なものを選び、生きているわけです。私たちは日々の生活を営む以上、やらなければならないこと、やりたいことは次から次へと出てきます。その一方で1日は誰にとっても24時間。どうすれば時間を有効に使い、自分の目標に向かって歩み続けられるかは大きな課題でもあるのです。

 私は毎日「やるべきこと」や「やりたいこと」を手帳に書き出しています。この習慣はかなり前から続けているのですが、今の方式に至るまでは試行錯誤の連続でした。手帳術や時間管理に関する本もたくさん読み、自分に合うスタイルやヒントが少しでもあれば取り入れるようにしてきたのです。今使っている手帳は1日1ページのリフィルが入るシステム手帳なのですが、そこには仕事の課題から「そうじきをかける」「夕食の献立を考える」「子どもの服のボタンつけ」といったことに至るまで、すべて列挙しています。

 毎朝起きて最初にするのは、このリストの点検です。その日のページを開き、たくさん書かれたTo do listの中からどれが重要かをまず考えます。最優先すべきは「締め切りのある仕事」、つまり連載の原稿執筆や通訳学校の授業準備です。こうしたことは後回しにすることはできませんので、何はさておき取りかかる必要があります。よって1日の流れの中でも、まずはこうした項目から着手することになります。

 次にプライオリティーが高いのは、家族として機能する上で必要な項目です。たとえば食事作りや子ども関連のものがこれに相当します。私は結婚当初、料理が大の苦手で、食事を作るのがとにかく苦痛でした。しかし子どもが生まれてからはいつまでも外食やいい加減な食事を続けることもできなくなり、自分でなんとかして料理の腕を上げざるをえなくなりました。今では自分なりに段取りが構築され、外食やスーパーのお惣菜に頼らずに作れるまでになりつつあります。料理をどのようにして「キライ」から「スキ」に変えたかについても、また別の機会にお話したいと思っています。

 さて、ここまで「もっとも重要」「次にやるべきこと」と優先順位をつけてきました。朝起きてすぐに「やることリスト」を見ながらプライオリティーを考えるわけですが、実際に取りかかるのはすべてのリストをじっくり見てからです。なぜなら朝一で優先順位をしっかりとつけることが大事だと私は考えているからです。「今日はこれとこれをこなして、もし時間があったらあれもやろう」と頭に叩き込むことが、作業をする上でも大切だと思っています。

 1日の大まかな流れが把握できたら、いよいよ作業開始です。その際にも、「絶対にやるべきこと」の中で集中力を要するものは午前中にもってくる、機械的にできることなら眠気の襲う午後に流れ作業的にやるなど、集中力と時間とのバランスを考えながら配分しています。

 以前はとにかくTo do listの上に書かれた項目からこなしていくことが大事だと考えていました。けれどもこうして全体像を把握し、一つ一つに対応していった方が効率的になれるようです。まだまだ私の生産性探求は続きます。

 (2009年6月22日)

Written by

記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

END