INTERPRETATION

プロになるためのリーディング

上谷覚志

やりなおし!英語道場

先週、解読型リーディングと情報収集型リーディングとの違いについて書きました。一般の方だけでなく、通訳を目指す方を教えていても、本当に多くの方が解読型をリーディングと思い込んでいて、あくまでも英語を勉強するためのツールと捉えているような気がします。だから“精読”と“多読”どちらがいいのかとか、“Newsweek”や”Time”や”Economist”や”Foreign Affairs”のどれを読むべきかという質問が出てくるのでしょう。

実は、私も通訳学校に入ったころは、このような質問を講師に何の疑問もなくしたものです。より効果的な方法(または雑誌)があり、先生ならその答えを知っているはずと思っていた時期もありました。その頃の私には、リーディングは新しい単語や表現を吸収する手段であり、入り組んだ構文を見抜く力をつける訓練でしかありませんでした。ですから、自分にとってリーディングとは時間のかかる面倒な勉強方法(宿題)だったわけです。読んでいても、すぐに迷路に迷い込んでしまったような気持ちになり、こんなことしていていいのだろうかとよく思ったものでした。

しかし通訳をするようになり、好む好まざるに関わらず、大量の資料を読むことになってからリーディングに対しての考え方が変わりました。仕事に必要な情報を限られた時間で理解し、その情報の量と質が自分の仕事に直接影響することを何度も経験し、よりインターラクティブな情報収集型リーディングの重要性やそのメリットを理解するようになったような気がします。

解読型のように、単語を丁寧に調べていくことが悪いわけではありませんし、語彙や表現力を強化していく上では非常に重要ですが、それだけをやっていても本来のリーディング力は身につきません。解読型に偏りすぎる一番の弊害は、単語や表現ばかりに目を奪われて、何が書いてあるかを理解することを忘れている点にあります。本来読むというのは、情報を得るための手段のはずが、勉強手段として捉えられるあまり、単語の意味を調べることに終始している人が多いのは残念です。

通訳訓練を受けているような人でさえ、訳してもらうと単語だけを置き換えて、何を言いたいのかわからない日本語を出してくることも珍しいことではありませんし、単語さえ意味があっていれば、それで意味が伝わると考え、情報がきちんと相手に伝わっていないことにすら気づいていない場合もあります。

通訳にしろ、翻訳にしろ、言葉のプロになるのであれば、少なくとも本人は(間違っているかもしれないにせよ)筋の通った解釈を明確に伝えることができないとプロにはなれないと思います。何となく単語だけをなぞらえて訳すことしかできないのでは、現場では通用しません。そのためにも普段から情報を伝えるというプロの目線でリーディングをする必要があります。現場に出たことのある人とそうでない人の違いはこういう部分にも表れてきます。

現場に出たことがない人は“内容を追って理解していく” “情報を伝える”という視点で読むのではなく、“単語を調べる“”何となく文字だけを追っていく“ことに終始しているため、通訳訓練をしても、思うように伸びなかったり、練習してはいるものの空回りしていることが多いような気がします。

読み方の意識を少し変えるだけで、情報を捉えて伝えていくという意識へと変化し、通訳スキルや英語力が大きく伸びると思います。そういう意識で読めるようになると、“Newsweek”や”Time”や”Economist”や”Foreign Affairs”のどれがいいのかとか、精読や多読の優劣といった質問に対する答えは自ずと出てくると思います。

ボキャビルのためのリーディングだけではなく、コミュニケーション・ツールとしてのリーディングを再確認することで次のレベルに上がれる方は少なくないと思います。これまでやってきた“読む”という作業をもう一度見直してみてはいかがでしょうか?

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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