TRANSLATION

第42回 図表を訳す②

土川裕子

金融翻訳ポイント講座

こんにちは。前回に続いて「図表」を取り上げます。図表のタイトルは、短いなかにも多くの重要な情報が詰め込まれ、非常に訳しにくいことがあります。また凡例も略語が使われることが多いため、なかなか一筋縄では行きません。先月は比較的素直なタイトルと凡例を訳しましたが、今回は、日本語ではあまり見られない「一つの文章が複数のタイトルに分かれている」タイプを見てみます。(図表の数値はすべて架空)

【本日の課題】
Chart 1. Investment as a share of world GDP highest since 1980s–

Chart 2. –driven primarily by capital spending in emerging countries

図表1ではInvestment/World GDPつまり世界のGDPに占める投資の割合、図表2ではEM Investment/GDPつまりEmerging countries(新興諸国)のGDPに占める投資の割合を示しています。お気付きの通り、
Investment as a share of world GDP is the highest since 1980s, driven primarily by capital spending in emerging countries.
という文章が二分割された状態ですので、まずはこの文章を直訳してみましょう。
世界の国内総生産(GDP)に占める投資の割合は、主として新興諸国における資本支出が原動力となり、1980年代以降で最高である。
このうち下線部が図表1、その他が図表2になっていますので、訳には工夫が必要となります。なおcapital spendingはこの場合、明らかに(支出面から見た)GDPの構成要素である「企業による設備投資」を意味していますので、「資本支出」よりは「設備投資」とした方が良いと思います。

英語に入っている「–」を日本語にも入れるかどうかは好みの問題です。よほどうるさい、失礼、細かいクライアントさんでない限り、翻訳者の段階で決めてしまって良いでしょう。

【試訳】
図表1:世界のGDPに占める投資の割合は1980年代以降で最大

図表2:投資の牽引役は主として新興諸国の設備投資

図表2の英語は「主として新興諸国における資本支出が原動力となり」ですが、それだけでは「何が」原動力となったのか分かりませんので、日本語では主語を補足した方が良さそうです。図表1と2が隣接して表示されていて、日本語にも「–」を入れる場合は、主語がなくても大丈夫かもしれません。例えば
図表1:世界のGDPに占める投資の割合は1980年代以降で最大–
図表2:–その主な牽引役は新興諸国の設備投資
など。

また非常に細かいことですが、(%)を(%)に直したことにお気付きでしょうか。もし本文で「%」を全角で示しているのならば、図表内も全角にすべきですので、お忘れなく。

次回は凡例を見ることにしましょう。

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記事を書いた人

土川裕子

愛知県立大学外国語学部スペイン学科卒。地方企業にて英語・西語の自動車関連マニュアル制作業務に携わった後、フリーランス翻訳者として独立。証券アナリストの資格を取得し、現在は金融分野の翻訳を専門に手掛ける。本業での質の高い訳文もさることながら、独特のアース節の効いた翻訳ブログやメルマガも好評を博する。制作に7年を要した『スペイン語経済ビジネス用語辞典』の執筆者を務めるという偉業の持ち主。

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