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第45回 GDPの○%を占める?○%に相当する?

土川裕子

金融翻訳ポイント講座

こんにちは。前回で「図表を訳す」シリーズが終わりましたが、% of xxxという表現について書き残したことがありますので、今回はそれを。

例えば、こんな文章があったとします。
The private consumption accounts for 50% of GDP.
account forは「~を構成する」の意味がありますので、正確に訳すとすれば
個人消費は、GDPの50%を構成する。
となります。以前も書いたように、GDPは
国内総生産(GDP)=個人消費+設備投資+在庫投資+政府支出+輸出-輸入
という構成なので、上記の例で言えば、例えばGDPが1億ドルの国があったとすると、個人消費は1億×50%=5000万ドルであった、ということですね。

それでは、
The fiscal deficit is forecasted at 4.3% of GDP for the entire year.
はどうでしょう。普通に訳せば
財政赤字は、通年でGDPの4.3%と予想されている。
になります。例えばGDPが1億ドルの国があったとすると、その国の一年間の財政赤字は1億×4.3%=430万ドルであった、ということですね。

この2つの例、非常に良く似ていますが、重大な違いがあります。

もちろんお分かりでしょう。「構成要素かそうでないか」です。先ほど見たように、個人消費はGDPの一角を構成する要素。一方の財政赤字は、あくまでも「GDP総額と比較すると、4.3%に相当する」ということであって、財政赤字がGDPに含まれているわけではありません。

上記のような分かりやすい例ばかり見ていますと、間違えようがない、と思えるのですが、GDPのように構成要素が分かりやすいものばかりではないですし、長い長い文章の隅っこにこっそり入っていたり、動詞が省略されていたりすることもあるので、実は要注意の表現なんです。

前後の英語表現が参考にならない場合、それこそ図表などでそこだけ切り取られている場合、逆説的な言い方ですが、頼りになるのは「文脈」。

英語のofも同じことですが、日本語の「の」には非常に幅広い意味があるので、例えば先ほどの「財政赤字は、通年でGDPの4.3%と予想されている」は、字面だけで考えれば「財政赤字はGDP総額のうち4.3%を占める」という意味にもとれます。しかし実際問題として、そのように読む人はいません。なぜか。財政赤字はGDPの構成要素ではない、という大前提を皆が知っているから。いわゆる「文脈から考えて」というやつです。

これを、英語を読み取るときにもしっかりやってね、というのが今回のテーマです。例えば
corporate debt outstanding as a % of GDP
とあったとして、これが
private consumption as a % of GDP=GDPに占める個人消費の割合
とまったく同じだからといって、「GDPに占める企業の債務残高の割合」としてしまうと、この人なにも考えていないわ、という評価になってしまいますのでご注意! もちろんこれは、「企業の債務残高の対GDP比」です。

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記事を書いた人

土川裕子

愛知県立大学外国語学部スペイン学科卒。地方企業にて英語・西語の自動車関連マニュアル制作業務に携わった後、フリーランス翻訳者として独立。証券アナリストの資格を取得し、現在は金融分野の翻訳を専門に手掛ける。本業での質の高い訳文もさることながら、独特のアース節の効いた翻訳ブログやメルマガも好評を博する。制作に7年を要した『スペイン語経済ビジネス用語辞典』の執筆者を務めるという偉業の持ち主。

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