TRANSLATION

第199回 どうして表記が大事なの?

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

試訳を準備した時に、多くの方が見落としてしまうことがあります。それが、表記に気を配ることです。

たとえば、「ひとつ」という言葉が、同じ文章の中で「ひとつ」「一つ」「1つ」と違う表記になっている。「?」を入れた後に全角スペースが1文字分必要なのに、スペースがないまま次の文につながっている……そういうミスをよく見かけます。

「細かいことだから、それほど気にしなくてもいいのでは?」と感じるかもしれません。だけど翻訳自体がよくできていても、表記に気を配れていないと、全体的な印象が悪くなります。評価がかなり下がってしまうのです。このあたりの感覚を理解していただくのはなかなか難しいものですが、しっかり把握していただきたいところです。たとえば、次のような状況を想像してみてください。

「重要なプレゼンをするために気合の入ったスーツを着てきているのに、思いっきり寝ぐせがついていて、クライアントにはその寝ぐせしか目に入ってこない」

「高級美容クリームを奮発してネット通販で買ったのに、届いたら箱がつぶれて容器にまで傷がついている」

いかがでしょう? これではせっかくいいプレゼンをしても内容が頭に入ってきませんし、せっかくの高級美容クリームも効果が半減する気がするのではないでしょうか。

さらに、表記の誤りが多いと、もはや次のような状況になってきます。

「重要なプレゼンなのにスーツじゃなくて、ビジネスカジュアルですらなくて、なぜかパジャマを着ている……!」

「届いた高級美容クリームの容器が壊れていて、クリームが段ボールにこぼれている……!」

プレゼンはクライアントに聞いてもらえないでしょうし、高級美容クリームも捨てられてしまうのではないでしょうか。そういう状況での残念な気持ちを想像すると、表記にまつわる感覚を少しおわかりいただけるかと思います。

編集者さんは試訳の原稿を読みながら、実際に赤ペンを入れるまではしないとしても、頭の中では赤ペンを入れていきます。数行おきに赤ペンが入るとしたら、読み進めるのがかなりストレスになるのは想像できますよね。

後半に進むにつれて試訳もこなれていく方が多いのですが、赤ペンがしょっちゅう入るようだと編集者さんにそこまで読んでもらえません。また、仮に読み進めてくれたとしても、最初の印象が悪いと、いくら後半がよくできていても評価が低くなってしまいます。

自分の試訳を客観的にチェックするのはなかなか難しいものですが、編集者さんがどう読むかを考えながら、しっかり表記を見直してくださいね。

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Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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