TRANSLATION

第325回 翻訳絵本の持ち込みプロセスを公開します⑩

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

17社目の持ち込み先に選んだのはQ社でした。実は、Q社の社長さんとは以前から面識があったのですが、持ち込み先としては考えていませんでした。何度か持ち込んだことがあったものの、いずれもお断りで、持ち込みのハードルが高いと感じていたのです。

ところが、テーマが気になって読んだ2冊の本が両方ともQ社の本だったことから、候補として考えるようになりました。1冊は私の企画と同じモチーフが登場していて、もう1冊はテーマが共通していました。類書があるということは、「すでに同じものがあるからいらない」とも捉えられますが、「同じものだから関心がある」とも捉えられます。後者の場合、どう差別化できるかが問われます。私の企画はうまく差別化ができるのではと思いました。

そこで、Q社の社長さんに手紙を書いて、企画を見ていただきたい旨をお伝えしました。絵本の色合いをお伝えしたいので、データではなく現物をお見せしたいことを申し添えています。メールではなく手紙にしたのは、最近のメディア掲載情報を同封したかったからです。有料記事として配信されているものをデータで送るのは問題があるため、プリントアウトして同封しました。

すると、いつでも見ますよ、とのお返事。それでは、と近い日程を選んでお伺いしました。すぐに本題に入るタイプの方なので、早速原書をお見せすると、「これは売りにくいね」とのお言葉……。アーティスティックな絵本なので、本書を買う層が日本では育っていないというのです。実際にQ社でも以前にアーティスティックな絵本を出したことがあり、売れなかったそうです。

本書を買う層とは具体的にどういう方を想定しているのか伺うと、「アート系、イラストレーター志望、海外に興味がある層」と教えてくださいました。だけど、そうすると「児童書売り場ではないよね」と。

発売されたら絵本関連の章を受章できそうな作品ではあるけれども、直木賞や芥川賞などと違って絵本の場合は受賞が売上につながるわけではないので、「定価をこれくらいに設定したとして……1000部売れるかどうかというところだと思う」とのこと。

見込みがこれだと、企画を通すのはなかなか難しいですよね。ただ、「50部売ってくれる書店が20社あれば、それで1000部になる。最近は、そういうやり方を目指す出版社もある」というお話もしてくれました。なるほど……。万人受けする作品ではない場合、すごく気に入って推してくれる方に発信してもらう方法もいいのかもしれません。そんな方針の出版社を探すのも一案です。

フィードバックの中で、私の気づいていなかった本書の特徴も教えていただきました。一般的な絵本であれば主人公の絵をメインに描くようなシーンで、本書ではあえて主人公を出さずに描いていて、そこがいいのだそうです。言われてみれば、たしかに面白い描き方です。本書の色彩感覚が気に入っていることもあり、そちらに目が奪われていましたが、描き方にも特徴があったのかと学びになりました。

他にも、受賞歴と売上の関係や、受賞歴がものをいう場面、絵本業界全般の動向や内部事情など、伺うことができました。同じ会社でも、担当者が変わると方針が変わることがありますが、その情報は外部からは知り得ないものなので、やはり直接お会いすることは大切だと感じます。

せっかくなので、これまでに持ち込んだ出版社をお伝えし、今後の持ち込み先のご相談までさせていただきました(笑)。R社が気になっていることをお話すると、「あそこはいいかもしれないね。R社はね……」と教えてくださり、「直接会ってみたほうがいいと思うよ。R社の社長さんは、翻訳家とは会うみたいだから」とのアドバイス。できることなら、実際にお会いしてお話したいものです。

ただ、ここで問題が。私は都内在住なのですが、R社は地方にあるので、一泊二日の出張になりそうです。そして超方向音痴の私には地方出張のハードルがすごく高いのですが……ここはがんばるしかないですね。まずは、お会いできるように手紙を書くところから始めます。またご報告しますね!

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記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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