TRANSLATION

イギリス英語なのかアメリカ英語なのかに留意して読む

宮崎 伸治

出版翻訳家による和訳レッスン

ご存じの通り、「英語」と一口にいっても、イギリス英語もあればアメリカ英語もあります。翻訳家にとって問題はそれぞれ発音が微妙に異なるというだけでなく、書き言葉も異なっていることです。なぜなら訳文も変えなければならくなることがあるからです。

日本で「英語」というとき、たいていは「アメリカ英語」のことを指していると考えてかまわないでしょう。私自身、イギリス留学前はずっと日本で英語の勉強を続けていましたが、29歳のときにイギリスに留学して初めて、いかに自分が「アメリカ英語」に慣れ親しんでいたかを実感しました。

例えば、イギリスでは「エレベーター」のことをelevatorとはいわず、liftといいますし、「リビングルーム」もliving roomとはいわず、sitting roomといいます。また、イギリスでは「2週間」のことを fortnightといいます。挙げればキリがないほど相違点があるのです。またスペルが異なる場合があります。たとえばprogramというスペルがイギリス英語ではprogrammeなのです。

そういうわけでイギリスにいる間、しばしば遭遇する「イギリス英語」に違和感を抱いていたものでした。これはそれだけ私が「アメリカ英語」に慣れ親しんでいた証拠といえます。

私のように日本で生まれ日本で英語教育を受けたという一般の人が英語の書籍を読んでいて違和感を抱かないようであれば、たいていは「アメリカ英語」を読んでいると思っていいでしょうが、ことはそう簡単ではありません。というのもイギリスでしか使えない「イギリス英語」とアメリカでしか使えない「アメリカ英語」ときっちり分かれている単語もあれば、イギリスでもアメリカでも使える「イギリス寄りの英語」もあれば、イギリスでもアメリカでも使える「アメリカ寄りの英語」という単語もあるからです。

少し例を挙げておきましょう。

  • 「イギリス英語」と「アメリカ英語」の例

日本語      イギリス英語     アメリカ英語
郵便ポスト    pillar box                         mailbox
掲示板      notice board                   bulletin board
キャンディ    sweets                            candy
寮        hall of residence            dormitory
郵便番号     post code                      zip code

 

  • 「イギリス英語」と「イギリスでもアメリカでも使われるアメリカ寄りの英語」の例

日本語      イギリス英語     アメリカ英語
ゼロ       nil                         zero
消しゴム     rubber                    eraser
電話ボックス   telephone box            telephone booth
(車の)パンク  puncture                          flat
弁護士      solicitor                            lawyer

 

  • 「イギリスでもアメリカでも使われるイギリス寄りの英語」と「アメリカ英語」の例

日本語      イギリス英語     アメリカ英語
秋        autumn                            fall
蛇口       tap                                   faucet
くず       rubbish                            garbage
列        queue                              line

特に小説を読むときは、その国にしかない言葉が出てくることも多いので、読む前に「アメリカ英語」で書かれたものなのか「イギリス英語」で書かれたものなのかを頭に入れておくといいでしょう。

たとえば、イギリス人がイギリス英語で書いた英文中に「Big Four」が出てきたとします。なんのことか分からない人がアメリカ情報辞典をいくら探してみても解決できるとは限りません。なぜならそれイギリスの「4大銀行」、すなわち、ナショナル・ウエストミンスター、バークレーズ、ロイズ、ミッドランドの総称のことだからです。

しかし、「Big Four」はアメリカでは4大自動車メーカー(アメリカンモーターズ、クライスラー、フォード、ゼネラルモーターズ)を指しますので、それがアメリカ人がアメリカ英語で書かれた英文中にあれば、そういう意味だと解釈するのが妥当でしょう。

ところで「アメリカ英語」と「イギリス英語」の違いを知る一つの方法は、辞書で調べてみることです。

簡単な例で説明しましょう。lift をある英和辞典で引いてみると、その定義のひとつとして次のように出ています。

lift = (英)エレベーター、昇降機(<米>elevator)

このようにその単語が「イギリス英語」ではどういう意味なのかに加えて、その訳語に相当する「アメリカ英語」は何かが示されているのです。

さらに詳しい情報を知りたい人は、「イギリス英語」と「アメリカ英語」の違いについて詳しく書かれた参考書なり辞典なりを一冊揃えておくといいでしょう。

拙書『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』(三五館シンシャ)が発売中です。出版翻訳家(およびその志望者)に向けた私のメッセージが詰まった本です。参考まで手に取っていただければ幸いです。

また、『自分を変える! 大人の学び方大全(仮)』(世界文化ブックス)が2021年12月刊行予定です。お楽しみに。

Written by

記事を書いた人

宮崎 伸治

大学職員、英会話講師、産業翻訳家を経て、文筆家・出版翻訳家に。産業翻訳家としてはマニュアル、レポート、契約書、パンフレット、新聞記事、ビジネスレター、プレゼン資料等の和訳・英訳に携わる。
出版翻訳家としてはビジネス書、自己啓発書、伝記、心理学書、詩集等の和訳に携わる。
著訳書は60冊にのぼる。著書としての代表作に『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』(三五館シンシャ)が、訳書としての代表作に『7つの習慣 最優先事項』(キングベアー出版)がある。
青山学院大学国際政治経済学部卒業、英シェフィールド大学大学院言語学研究科修士課程修了、金沢工業大学大学院工学研究科修士課程修了、慶應義塾大学文学部卒業、英ロンドン大学哲学部卒業および神学部サーティフィケート課程修了、日本大学法学部および商学部卒業。

END