INTERPRETATION

「アトランタ出張」

木内 裕也

Written from the mitten

先日、久しぶりにアトランタへ行ってきました。アトランタはデルタ航空、コカ・コーラなどアメリカを代表する大企業の本社が多数集まっているため、通訳案件での出張が比較的多い都市の1つです。また、様々なコンベンションや学会の開催地としてもアメリカ国内で有数の都市としても有名です。今回は3泊4日の通訳案件でアトランタを訪れました。

 アトランタへ移動した日は業務がなかったため、少し観光をしました。アトランタはキング牧師のゆかりの地でもあり、アフリカ系アメリカ人に関する様々な研究機関や博物館があります。私は一般観光客向けの博物館にて、キング牧師の人生のどのような面に焦点が当てられているかに興味があり、複数の施設を訪れてみました。つまり、1950年代と1960年代の公民権運動で様々な活躍をしたキング牧師は、アメリカの英雄として日本でも有名です。しかしキング牧師にはあまり知られていない過去もあるのです。たとえば、彼はボストン大学の神学部で博士号を取得しましたが、彼の博士論文や、大学院で執筆した論文の数々は他の人の論文の記述を盗用した箇所がたくさんあります。また、婚約相手がいたにも関わらず浮気をしたり、結婚後にも複数の女性と付き合っていた過去もあります。このような過去はあまり知られていません。今回、アトランタの博物館では彼の人生のどの様な点に焦点が当てられているか、見て回りました。

 キング牧師の家族が創設し、今ではアメリカ政府が管理しているキング牧師の博物館では、彼の人生における光の部分だけに注目していました。写真にあるとおり、公民権運動の際に使われたプラカードが展示されていたり、暗殺後に棺を載せた台車が展示されていたり、訪れる価値の高い博物館です。当日は地元の中学生が遠足に来ていました。キング牧師の社会貢献を知るには非常に有意義な施設です。お土産コーナーでは彼の様々なスピーチのテープやCD、そしてビデオが販売されていました。

 博物館の向かいには、キング牧師のお墓があります。また、昨年亡くなった彼の奥さんのお墓も隣にあります。多くの観光客が写真を撮っていました。しかし同時に、墓石の前に長い間たたずんで、物を考えているような姿の人もいました。

 どの施設でもキング牧師にまつわる一般的なイメージを崩すような史実が語られている場所はありませんでした。アトランタで黒人の消防士がいた消防署(昔、黒人は消防士になることができませんでした)が今では博物館になっていますが、そこのお土産コーナーでキング牧師の影の部分に言及する本が販売されていたのが唯一の例外でした。

 歴史的英雄も1人の人間です。彼の影の部分を知ることで、キング牧師の社会的貢献の価値が下がるとは思いません。しかしやはり英雄とは光の部分だけに焦点を当てられがちです。歴史的事実に忠実な理解をして、国民的ヒーローの光と影の両方を知ることがとても大切だと感じます。そうすることによって、偉人と呼ばれる人たちと我々の距離が縮まることもあります。すると「自分も努力すれば、大きな社会的貢献をできるかもしれない」と感じることができるでしょう。

Written by

記事を書いた人

木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

END