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資金繰り

工藤浩美

テンナインヒストリー ~挑戦への軌跡~

今回は起業当初の資金繰りについて書くことにします。ここまですべてをさらけ出していいのかなと思うところもありますが、当時試行錯誤しながら一歩、一歩進んでいったことを語るのに、資金繰りの話しは外せないと思います。

起業当初は夢と希望と体力だけはたくさんありましたが、潤沢な資金があった訳ではありません。どんなに節約していても資本金は起業準備に少しずつ消えていきます。一刻も早く売上を作ることは最重要課題でしたが、例え売上があっても入金前にキャッシュアウトしてしまうと、会社は倒産してしまいます。つまり企業にとってキャッシュとは、人間の体に例えると血液と同じなのです。スタートアップで運転資金を銀行から借りたり、投資を募る企業は多いと思いますが、私は借金には強い抵抗がありました。そこで会社にキャッシュを貯めるある方法を思いつきました。

起業1年目自分の報酬を月額30万に設定しました。もちろんボーナスなし、年収にすると360万です。サラリーマン時代の最終年収の半額以下でした。月30万のうち、毎月20万円を会社に貸付けて資金繰りに充てました。つまり一度個人口座に30万振り込んで、20万を会社の口座に戻していました。年間240万円のキャッシュが会社にプールされる計算になります。私は月10万円の予算で生活しました。月額30万円の所得税を払っていたので、正確には手元に10万円残りませんでした。

果たして月10万円で生活が出来るのか?さすがに貯金は出来ませんでしたが、なんとか生活は出来ました。当時マンションの頭金として貯めていたお金を資本金に回したので、住宅ローンはありませんでした。寝泊まりはオフィスとして借りていたマンションの一部屋だったので、賃料もほとんどかかりません。また洋服や靴、バックといった嗜好品は一切買わず、大好きだった旅行も一年間一度も行きませんでした。

それでストレスが溜まったかというと、まったくそんなことはありません。不思議なことに会社で必要なホワイトボードや机を買ったり、パソコンやインク、切手などを買ったりするので、「何かを買いたい」という物欲はそれで充分満たされていました。もちろん会社のお金と個人のお金はきっちり分けていましたが、「お財布からお金が出る」という感覚、「お金を払って物を買っている」という感覚は、私の中では個人も会社も同じだったのです。

仕事でランチを食べたり、打ち合わせでお茶をしたりしてもそれ会社の経費から出すことが出来ます。やり繰りしながら何とか1年間月10万円で乗り切りました。1年目から黒字決算だったので、会社に貸付けた240万円はきちんと期末で清算し、私の手元に240万円の現金が残りました。

会社を経営すると自由に報酬を決めることが出来ます。ただ報酬とサラリーマン時代の給与というのは全く違ます。この違いに気付いていない経営者は割と多く、会社を畳んでしまうのを今まで何度も見ています。経営者の報酬は売上がなくなったり、赤字になって資金繰りが厳しくなったら一番最初にストップされるものです。また会社が万が一資金繰りに困った時、会社にキャッシュを貸し付けるのは経営者だけです。だからこそ、経営者はもらっている報酬をすべて使うというのは、あり得ないことだと思っています。報酬を万が一のためにきちんとプールして、会社を守るためにいつでも使うという覚悟が必要なのです。

この経験は私の無借金経営の原点でもあります。

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記事を書いた人

工藤浩美

白百合女子大学国文科卒業後、総合商社勤務。
その後通訳・翻訳エージェントに2社、合計11年間勤務。通訳コーディネーターとしてこれまでに数百件の通訳現場のサポートを行なう。 2001年7月に株式会社テンナイン・コミュニケーションを設立。趣味はシナリオ執筆。

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