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週刊アスキー2011年12月6日号

いぬ

通訳・翻訳者リレーブログ

あっという間に年が明けてしまいました。新年のご挨拶をするには時期を失してしまっておりますが、今年もどうぞよろしくお願いいたします。

年末からNHKのラジオ講座のテキストやら台本やらの執筆でてんてこ舞いをしておりまして、恐縮ですが今回は(も)、指導している大学生向けにMLとブログで流したことの転載とさせて下さい。

いぬ

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BBCで放送通訳をしていた時、イスラエル軍とパレスチナ治安部隊の銃撃戦に巻き込まれた、パレスチナ人の少年と父親の映像を見たことがあった。午後に入ってすぐぐらいだっただろうか。すでに記録映像になっていて、通訳ルームで噂になっていたので、結末は知りつつも目が釘付けになってしまう。

物陰に身をひそめる2人。必死に助けを求め、息子をかばう父親。しかし無残にも息子は射殺され、父親も重傷を負ってしまう。

このエントリを書くために調べたところ、少年を助けようとした救急隊員も1人が射殺され、1人が重傷を負ったとのことだ。

BBCのニュースサイトから
http://news.bbc.co.uk/2/hi/952600.stm

事件に関する英語版ウィキペディアの記事
http://en.wikipedia.org/wiki/Muhammad_al-Durrah_incident

今回取りあげた鎌田氏のインタビューには「アハメドくんのいのちのリレー」という鎌田氏の本が出てくるが、「イスラエル兵に打ち殺されたパレスチナ人少年の臓器が、イスラエル人に移植される」という話を聞いて、てっきりこの話だと思っていた。調べてみると、上記の事件の5年後の話らしい。

BBCのニュースサイトから
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/4417354.stm

悲しい事件が、次々に生まれているものだ。そして、その慟哭は、たぶん大多数の日本人には届かない。届かなくても、生きては行ける。

でも、だからこそ、放送通訳者としては、その悲痛な叫びを何とか視聴者の皆さんに届けたい。教員としてはそれを次の世代に伝え、自分たちが生きる世界のことを深く考えてほしい。

何か前に進む手立てを考える一助にして欲しいのだ。

そのための通訳だし、教職だ。そんな風に考えている。

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「時代を駆けるキーパーソンたちに訊く!『え、それってどういうこと?』」第202回
ゲスト 鎌田實
聞き手 進藤晶子

(前略)

鎌田
12歳のパレスチナの少年が、敵のイスラエル兵に撃ち殺されたという事件で。脳死状態になった少年のお父さんは主治医から「助けることはできないけど心臓は動いているから病気の子供を救うことができる」と言われるわけです。しかもイスラエル、敵の病院に入ったので「民族を選ぶことはできないし、この宗教の子どもだけにあげてくれという選択はできない」と言われて、お父さんは臓器移植の承諾をした。

(中略)

だけど、この本の主役はやっぱりアハメドくんのお父さんで。彼は息子を殺されて絶望のなかにいたと思うんです。本当なら敵の国の人を憎みますよね。だけど彼は、その憎しみを横に置いた。それでイスマイルさん(柴原注:射殺された少年の父親)に「移植をよく承諾できましたね」と言ったら、「海で溺れている人がいれば、泳げる人間は飛び込むだろう。それが当たり前だ」って。

(中略)

それで、そのイスマイルさんをサマハちゃん(息子さんの臓器を移植されたイスラエル人の女の子)のところに連れていったら、会った瞬間に彼女を抱きしめてね。「まるで息子が生きているみたいだ」って喜んだんです。だけど「でも、まだ半分だ」とも言うんですよね。

(中略)

「まだ本当の平和が来ていないから。そういう意味ではまだ半分なんだ」と言うんです。

(中略)

こういうふうにみんながちょっとずつ発想を変えていくことができたら、戦争もなくなるんじゃないかな。このお父さんは憎しみを横に置いたんだけど、そうやった僕らもちょっとしたイヤなことは、横に一度置いてみたら、結構うまくやっていけるんじゃないか。

(中略)

一番言いたかったのは、”にもかかわらず”というキーワード。お父さんは息子を殺された”にもかかわらず”息子の心臓を病気の子どもを救うために提供した。

<サマハちゃんに対して、鎌田氏が「夢はなに?」と聞いてみた>
「来年、できたら大学を受験して医学部を目指したい。今度は命を助ける側にまわって、敵のパレスチナの子どもを助けたい」

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「アハメドくんのいのちのリレー」
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%A2%E3%83%8F%E3%83%A1%E3%83%89%E3%81%8F%E3%82%93%E3%81%AE-%E3%81%84%E3%81%AE%E3%81%A1%E3%81%AE%E3%83%AA%E3%83%AC%E3%83%BC-%E9%8E%8C%E7%94%B0-%E5%AF%A6/dp/4087814718/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1325684839&sr=1-1

今からアマゾンで注文します。僕が読み終わった後、研究室に置いておくから、みんな読みにおいで。

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記事を書いた人

いぬ

幼少期より日本で過ごす。大学留年、通訳学校進級失敗の後、イギリス逃亡。彼の地で仕事と伴侶を得て帰国。現在、放送通訳者兼映像翻訳者兼大学講師として稼動中。いろんな意味で規格外の2児の父。

END