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はじめての自転車

かの

通訳・翻訳者リレーブログ

 息子と娘の自転車が届いた。夫から遅まきながらのクリスマスプレゼントである。
 長男は来月で小学校一年生。娘も年中組に進級する。近所のお友達は3歳ぐらいから自転車を練習していたので、我が家は後発組だ。
 思い起こせば、息子はずいぶん前から自転車をほしがっていた。2歳の端午の節句でいただいた三輪車は、あっという間に足が余ってしまい、物足りない。そんなこともあり、自転車にあこがれていたのだ。一方の私も、子ども二人の移動はもっぱら自家用車。歩くのも大好きで2駅分ぐらいホイホイとウォーキングするのだが、時間短縮と行動半径の拡大という意味では、自転車は魅力的。それで今回、一人一台ずつ夫は買ってくれたのである。
 購入先は、近くの自転車屋さん。昔からある小さなお店だ。夫はここで買うことを決めていた。以前、自分の自転車を購入してとても気に入っているからだと言う。
 3台買うとなるとかなりの金額なので、量販店の格安商品でも別に良いのでは、と私は内心思っていた。しかし、実際にこの自転車屋さんへ行ってみて、夫の言う意味がわかったのである。
 自転車店のおじさんは若いころから自転車が大好きで、店内にはレースの表彰状が壁中に掲げられていた。心から自転車を愛しているのだろう、私たちへもずっとニコニコで、きめ細かい応対をしてくださった。我が家の4人とカタログを見ながらどの自転車にするか選んでいた時も、色々とアドバイスをしてくださったのである。
 数日して自転車が入荷し、私たちは取りに出かけた。関東地方に大あらしが吹いた日曜日である。おじさんは「補助輪はいずれ取れますから。あせらずに、むしろ補助輪で楽しむお子さんたちをじっくり味わった方が良いですよ」と私に言ってくださった。実はここのところ私は、息子の卒園と入学という成長の節目をうれしく思う一方で、あまりの成長の速さに少しさみしい気もしていた。それだけにこの言葉は心に響いたのである。
 風と砂ぼこりが舞う中、私たちは新しい自転車とともに帰宅した。「こんな風で寒いから練習は後日かな」と私は思っていたのだが、子どもたちは乗ってみたいと言う。新品の自転車にヘルメットをかぶり、おそるおそるこぎ出す子どもたち。少しずつうまくこげるようになると、ますます笑顔になってゆく。新しいことに挑戦するというのは、こういう喜びをもたらすのだなと私は思った。
 思えば英語を習い始めた時もそうだった。新しい文字、新しい教科書、新しい単語すべてがまぶしかった。それらを書き写し、口に出すだけでも幸せだったのだ。
 自転車は単なる輸送手段だけではないし、英語も単にコミュニケーション道具だけではないはず。そんなことに気付かされた週末だった。

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記事を書いた人

かの

幼少期を海外で過ごす。大学時代から通訳学校へ通い始め、海外留学を経て、フリーランス通訳デビュー。現在は放送通訳をメインに会議通訳・翻訳者として幅広い分野で活躍中。片付け大好きな2児の母。

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