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容姿の問題再び…

まめの木

通訳・翻訳者リレーブログ

この時期、ぐんと増える仕事のひとつに監査の通訳がある。ドイツの企業がサプライヤーである日本のメーカーを視察にやってくるのだ。どうゆうわけだか毎年、4、5月に集中する。初めてこの仕事をした時は“監査”という言葉の響きに圧倒され、何百もの単語をかき集めて鼻息荒く臨み、最初に習った通訳の師匠が言っていた言葉を思い出さずにはいられなかった。

…通訳とは、言葉遣いひとつでクライアントの利害を左右しかねない仕事です。あなたの発する言葉にはそれだけの責任があるということを重々、自覚してください。あなたの訳次第では、避けられるはずの争いが生じたり、貧しい人々が援助を受けられない状況が発生したりすることもあるのですよ…

しかも、社内には英語ができる人もいるのに、監査だから念には念を入れてドイツ語通訳者を雇うケースが多く、そんなクライアントさんのお気持ちを察すればこそ、まったく気の抜けない現場なのである。スケジュールはほぼ共通しており、午前中が工場見学、午後に監査内容の質疑応答というのが標準で、大体一日で終わる。難しいのは、午前中の工場見学は語学のできる社員が対応し、通訳は午後の会議だけ来てくれればよい、というご依頼だ。午前中に油の匂いを嗅げないと詳細をイメージするのがなかなか難しいのだが、回数を重ねていくと、「あそこでパーツを供給してここでプレスして、こっちで組み立てる」というように、工場のレイアウトや作業工程を最初の5分位でシミュレーションできるようになってくる。

ところが、最近またやっかいな問題が浮上した。どうも私は実年齢よりも若く見えるらしい。外見的にも、どこをどう見たって「機械工学を専攻しました」というような迫力がないせいか、初めてのクライアントさんだと仕事が始まる前に、
『機械分野のご経験はありますか?』
『専門用語が出てきますけど…まあ気楽にやってください。』
と言われてしまうことがある(泣)。ドイツ人なら、ここで『いいえ、私にはこれこれこうゆう経験がありますから、どうかご安心ください!』と熱烈に自己アピールしてしまうのだろうが、以前ご紹介した先輩の金言をかたくなに守っている私は“できます・知ってます”オーラを決して出さないように努め、『ええ、まあ、はい…』と曖昧に微笑んでしまう。これまた逆効果なのだろうか。しかし、通訳の守秘義務から、こういった場合には間違っても『○○社で△△の仕事をしました。』などと言ってはならないのだ。

普段生活している分には若く見られるのは大いに結構なことなのだが、通訳者としてはあらたなコンプレックスの種である。外見からにじみ出る安心感というのも、もしかしたら通訳者に必要な資質かも…と悩んでしまう。どうにか“機械にちょっとは詳しい人”風にイメージチェンジできないものかしら…

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記事を書いた人

まめの木

ドイツ留学後、紆余曲折を経て通翻訳者に。仕事はエンターテインメント・芸術分野から自動車・機械系までと幅広い。色々なものになりたかった、という幼少期の夢を通訳者という仕事を通じてひそかに果たしている。取柄は元気と笑顔。

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