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輝く若者

まめの木

通訳・翻訳者リレーブログ

先日、工場で比較的長期の仕事をした。工作機械の設置、調整、オペレーター・トレーニングが主な仕事だ。前にも書いたが、実際にモノを見られること、またエンジニアの説明を聞くことができるのでとても勉強になるし、大好きな仕事のうちのひとつである。
そんな中、工場内の別の生産ラインで一際輝いて見える若者がいた。休憩時間終了のチャイムがなると、いち早く仕事場に戻り、8時間シフトの終わりまで、疲れを見せることなくテキパキと仕事に打ち込んでいる。また、彼は私が関わっていたラインとは別の部門なのに、休憩時間や業務終了時には帽子を取ってニコニコ挨拶してくれるのである。
日本人は帽子を取って挨拶をする習慣があまりないし、直接言葉を交わしたこともなく、また顔の表情が非常に豊かだったことから、おそらく外国から来ているスタッフかとずっと思っていた。
ところが、仕事期間が終わる頃、耳が不自由な方だと知ってびっくりした。鉄の部品に穴を開けたり、研削したり、非常に危険が伴う仕事だし、不良品やエラーが出てアラームが鳴ったら早急に対応しなければならない。それに、アラームの音に気がつかなければ、自身にも危険が及ぶのである。
耳が聞こえないというハンディをまったく感じさせないどころか、職場の雰囲気をも明るくする彼の仕事ぶりにあらためて驚嘆し、ライン責任者の方に聞いてみると、『彼はうちのホープなんだよ。』と嬉しそうに話していた。音が聞こえないはずなのに、アラームどころか、不思議と機械の微妙な音の違いを聞き分け、仕事のクオリティも高いと言う。また、最近、働くことに喜びを持つ若者がどんどん減り、すぐに仕事をやめてしまうスタッフが多い中、彼は毎日生き生きと仕事に打ち込み、責任感の強いスタッフの一人だ、と自慢しておられた。
家に帰る道すがら、色々と考えされられた。好きな仕事をさせてもらっているにもかかわらず、寒い戸外で一日中立ちっぱなしで通訳して疲れただの、休憩時間がもらえなくて最後の方は頭がくらくらしたの、フリーで話すと聞いていたのに行ってみたら立派な原稿を棒読みされただの、考えてみたら私も不平不満がいっぱいである。よく、『職業に貴賎なし』と言われるが、実際に仕事の貴賎を決めているのは自分自身の心と姿勢なのではないか…。反省していくうちに恥ずかしくなってしまった。
この仕事の最終日、かの若者に『お世話になりました。お仕事頑張ってくださいね。』と紙に書いて見せたら、『今日で最後なのは残念です。通訳さんもこれからも頑張ってください。』と書いてくれた。少し、目頭が熱くなった。

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記事を書いた人

まめの木

ドイツ留学後、紆余曲折を経て通翻訳者に。仕事はエンターテインメント・芸術分野から自動車・機械系までと幅広い。色々なものになりたかった、という幼少期の夢を通訳者という仕事を通じてひそかに果たしている。取柄は元気と笑顔。

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