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くしゃみ考

みなみ

通訳・翻訳者リレーブログ

 日本の書店には英語に関する様々な教本が山のように積まれ、インターネットで最新の大統領のスピーチから発音の仕方まで、ありとあらゆる映像や音声を手に入れることができる。ネイティブスピーカーとの会話にしても、好きな時間に予約できる英会話学校から電話レッスンまで、NZで得られるサービスよりよっぽど豊富だ。
 ただ、住んでみなければ分からない文化や習慣、考え方の違い、というものがある。もちろん、日本にいてもその情報は入手できるものがほとんどだろうが、実際に体験してみないと感じることができないニュアンス、意味を持つものである。そういった体験は、直接には英語の習得とはつながらないが、情報のよりよい理解、発信、交流のうえで、有益であるように思う。
 たとえば、非常にささいな例で恐縮だが、くしゃみに対する考え方は、日本とNZ(おそらくイギリスなどの英語圏全般に当てはまる)では非常に違う。
 NZに住む前から、くしゃみをしたら、周囲の人が「Bless you」という声をかけるというのは知識として理解していた。しかし、こちらに来て気づいたことに、くしゃみは非常に失礼な行為である、という点がある。レベルでいうと、おならに匹敵すると思われる(当社比)。
 だからなのか、こちらの子供たちは幼いころから、極力くしゃみを抑える習慣がある。それはもう見事にくしゃみを抑える。音にすると、「くにゅ」という感じで、息を飲み込んでしまう。人間は訓練すれば、くしゃみをコントロールできるのだなあ、と感心させられる。日本のように豪快なくしゃみを「はーくしょん!」と人前ですることは、通常はあまり考えられない。
 また、鼻をすするという行為も、非常にいやがられる。その反面、鼻をかむのは結構堂々としている。しかも、ティッシュではなく、ハンカチを使うことが多い。こちらではハンカチは、もっぱら鼻をかむのがメインの用途であるようにに思われる。日本では、人前で鼻をかむ方がいやがられる、またはびっくりされるように思うのだが、こちらではとにかく、鼻をすする方が嫌われる。
 以前、キウイとおしゃべりをしていて、彼女がふっと、1回だけ、鼻をちょっとすすり、すかさず、「Excuse me」といったので、「ほほお」と思ってしまった。
 さらに、耳かきは、鼻くそをほじくるのと同じぐらいの感覚だ。だから、間違ってもこちらの人のちょっとしたおみやげにと、日本の感覚で「耳かき」をプレゼントしない方がいい。以前、近所の子供が遊びに来ていたときに、たまたま見かけた耳かきを見つけて、「これ、なあに?」と質問され、「耳を掃除するもの」と何の気なしに説明したら、ものすごくいやーな顔をされてしまった。「鼻くそをほじくるもの」と説明を受けた場合の日本人の感覚だと思う(当社比)。
 正しいとか、間違っている、ということではなく、習慣として脈々と引き継がれているものがどの国にもある。そしてそれは、住んでみることによって、一つひとつ発見し、習得していくことなのだと思う。

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記事を書いた人

みなみ

英日をメインとする翻訳者。2001年からニュージーランドで生活。家族は、夫(会社員)、娘(小学生)、ウサギ(ロップイヤー)。

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