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第48回 この人がいるから頑張ろうと思うときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

どんなに大変でツラいことがあっても、どんなに嫌なことばかりでも、やっぱりもう少し頑張ろうと思う時があります。

あらゆることにうんざりして気持ちが切れてしまいそうになったとき、愛する人のことを思うと、グッと持ちこたえられたりします。

そんな気持ちを、ものすごく的確に表現した詩があります。

数々のロマンチックな恋愛詩を残した大詩人、シェイクスピアのこの詩を読んでみましょう。

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Sonnet LXVI
William Shakespeare

Tired with all these, for restful death I cry,
As to behold desert a beggar born,
And needy nothing trimmed in jollity,
And purest faith unhappily forsworn,
And gilded honor shamefully misplaced,
And maiden virtue rudely strumpeted,
And right perfection wrongfully disgraced,
And strength by limping sway disablèd,
And art made tongue-tied by authority,
And folly, doctor-like, controlling skill,
And simple truth miscalled simplicity,
And captive good attending captain ill.
Tired with all these, from these would I be gone,
Save that to die, I leave my love alone.

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ソネット66番
ウィリアム・シェイクスピア

あらゆることにうんざりだ。安らかに死なせてほしい。
価値ある人が困窮のうちに生き、
取り柄も何もない人が虚栄を張っている、
神聖なる誓いは無残にも反故にされ、
飾り立てられたうわべだけの名誉が間違った人に与えられる、
乙女の徳は非道にも娼婦のように扱われ、
正しくまっとうな人がいわれなき誹謗中傷の言葉を浴びる、
実力ある人が無能な権力者に蹴落とされ、
学芸は権威を振りかざすものに黙らされている、
愚かな人が専門家気取りで物事を動かし、
素朴な真実はわかりやすさの名のもとに誤解される、
善き人は悪代官のために汗を流している。
こんなこと全てに嫌気が差すと、いっそのこと全て捨て去ってしまいたい、
自分が死んで、愛する人をひとりこの世に残してしまうのでなければ。

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シェイクスピア、怒ってますねえ。

この詩が収められた『ソネット集』が出版されたのは、1609年。

しかし、内容は普遍的ですよね。

真に価値あるものが、不当に蹴落とされ、沈黙させられ、濫用される。

一方で、中身のない、価値のないものが、しゃしゃり出てきて、飾り立てられ、もてはやされる。

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そんな、うんざりするような悪弊、世の不誠実さに、死んでしまった方が楽だという気持ちが一瞬頭をよぎります。

しかし、自分が死んでしまったら、愛する人はこの腐敗しきった世の中に独り取り残されてしまう。

それを思うと、ここで踏ん張るしかない。

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何があっても、愛する人のためにもうひと踏ん張りできる、そんな「愛の尊さ」を謳った詩を、以前にも紹介したことがありました。

心が疲れ切ったとき、世の中の不正や身の回りの不誠実な人にうんざりしたとき。

そんなときに、ふと声を聞きたくなる人。そばにいてくれるだけで、もう少し頑張ろうと思わせてくれる人。

そんな人たちの顔が思い浮かんだら、まだ大丈夫と思えてきませんか。

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今回の訳のポイント

いつもは、詩の少ない言葉から、語りたい多くの言葉があるのですが、この詩はすべてを言ってくれている感じがします。

ソネットという詩の形式は、問題提起からはじまって、最後の2行で結論やどんでん返しがあるのが典型パターンのひとつです。

この詩も、散々「もうこの世の中にはうんざり」と言ってから、「でもやっぱり君を置いてはいけない」という劇的な結末を迎えています。

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古風な単語や言葉の運びなので、ひとつひとつを解説するだけで、一つの連載シリーズが書けそうなほどです。

この詩のリズムという点から言うと、特に、副詞+過去分詞のリズムが個人的には胸にストンと落ちてきます。

・unhappily forsworn「無残にも反故にされる」
・shamefully misplaced「恥ずべきことに誤った人のもとに与えられる」
・rudely strumpeted「非道にも娼婦のように扱われる」
・wrongfully disgraced「いわれなき誹謗中傷の言葉を浴びせられる」

何と言うか、心沸き立つような名演説の名調子のように、リズムに乗って怒りのボルテージが上がり興奮します。

でもやっぱり、最後は大切な人の顔が浮かんで、空に突き上げた怒りと憂鬱のこぶしを、もう一度ギュッと握って、そして静かに降ろすしかないんですよね。

 

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Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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