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第49回 忘れたくない人がいるときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

人との別れは辛いものです。

大切な人の姿や言葉を記憶にとどめておこうと思っても、年月ともに少しずつ忘れていってしまうものです。

あんなに多くの時間をともに過ごしたのに、あんなに多くを語り、分かち合ったのに、段々と記憶の細部が曖昧になっていく。

そんな、時間の残酷さにおびえそうになったときに思い出す詩があります。

遠くへと去っていく人が、やさしく語りかけてくれる、そんな詩です。

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Remember
Christina Rossetti

Remember me when I am gone away,
Gone far away into the silent land;
When you can no more hold me by the hand,
Nor I half turn to go yet turning stay.
Remember me when no more day by day
You tell me of our future that you planned:
Only remember me; you understand
It will be late to counsel then or pray.
Yet if you should forget me for a while
And afterwards remember, do not grieve:
For if the darkness and corruption leave
A vestige of the thoughts that once I had,
Better by far you should forget and smile
Than that you should remember and be sad.

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覚えていてね
クリスティーナ・ロセッティ

覚えていてね わたしが遠くへ行ってしまっても
遠く遠くわたしが冥土へ旅立ってしまって
わたしの手を握ることができなくなって
「じゃあね」と別れたり また一緒にいることができなくても
覚えていてね ふたり一緒の日々はもうなくて
思い描いていた未来を わたしに語ることができなくても
覚えていればいいの わかっているでしょ
忠告しても祈ったとしても もう手遅れだから
でも わたしのことなんかしばらく忘れてしまっても
またあとで思い出すこともあるから だから泣かないで
だって 暗闇や亡骸のあとに残るものがあるから
わたしの思いのかけらが残るから
だから わたしのことなんか忘れて 微笑んでいて
わたしのことを思い出して悲しむのは 嫌だから

*****

泣かないでと言われるほどに涙がこぼれてしまうのは、私だけでしょうか。

残された者は、去りゆく人の精一杯のメッセージを受け取って、本当に「忘れて 微笑んで」いることができるでしょうか。

変わらぬ日常があるときには、「じゃまたね」と別れては、また一緒にいるということが当たり前で、手の届かないところへ行ってしまうとは想像もしないものです。

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詩の前半では、「覚えていてね」を繰り返しています。

沈黙の国、The silent land「黄泉の国」へ旅立ってしまうのだから、言葉も届かないし、声を聞くことももうできません。

もう二人で未来について語り合うことはできないけれど、覚えていればいい。そう繰り返されます。

グッと来るのは、「もう手遅れだから」という言葉ですね。

未来にはこんなことが起こってしまうぞと、過去の自分に伝えてあげたくなることがありますが、それは無理な話。

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ところが、詩の後半になると、「忘れてしまってもいい」と、急転回が訪れます。

たとえ、忘れてしまったとしても、何かのきっかけで思い出すこともあるだろう。そう思えたら気が楽になるのになあと思っているところに、やさしい言葉が続きます。

かたちある身体や一緒にいる時間は失われたとしても、A vestige of the thoughts「思いのかけら」は残る。

あのときあんなこと言っていたな。あのときあんなこと言われたから、今でも癖みたいになってるんだよなあ。

そういう風にして、その人と過ごした時間や語り合った思いが、今の自分の考え方や行動のしかたに影響を与え、名残りとして刻まれていること。じーんときますね!

だから、ちょっと忘れたっていい。また何かのきっかけでどうせ思い出すのだから。最後まで読んでみて、そんなメッセージが分かる気がします。

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今回の訳のポイント

詩の前半と後半で、「覚えていてね」から「忘れてしまってもいい」へと大きくメッセージが変化するのに合わせて、詩の構成にも変化が見られます。

前半は、「覚えていてね」のメッセージを何度も念押しするかのように、二種類のシンプルな韻だけが繰り返されます。
・away/stay/day/pray
・land/hand/planned/understand

また、音の面でもとても効果的です。

「二人で語り合った未来はもう一緒につくれない」という強いメッセージが発せられる箇所になると、母音に変化が見られます。

声に出して読んでみるとわかるのですが、それまでaway/stay/dayなど比較的ゆったりした音が続いたのに対して、You tell me of our future that you plannedの箇所では、you/futureのooの音が鋭く響きます。自然と心に刻まれる感じがします。

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思い出せなくてもいいから」という詩を以前紹介したことがありましたが、追憶はいつも私たちの胸を焦がします。

「覚えておかないと」と自分に言い聞かせていないと、記憶が薄れてしまいそうで不安になる。

でも、一緒に過ごした時間の中で、様々に影響を受けて今の自分がある。

だから、何かを考えたり、話したり、行動をしたりするときには、やっぱりその人のA vestige of the thoughts「思いのかけら」は残っている。そう思えたら、微笑んで今日を生きられる気がしてきます。

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Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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