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第161回 静かな時間を過ごしたいときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

静かなひととき。

空が白み始めた朝に、せわしない一日の最後に、静かな時間があります。

ただ、それを味わう暇もなく、いつも何かに追われてしまうのが、実際の暮らしでもあります。

そんなときに思い出す詩があります。

*****

A Fantasy
Sara Teasdale

Her voice is like clear water
That drips upon a stone
In forests far and silent
Where Quiet plays alone.

Her thoughts are like the lotus
Abloom by sacred streams
Beneath the temple arches
Where Quiet sits and dreams.

Her kisses are the roses
That glow while dusk is deep
In Persian garden closes
Where Quiet falls asleep.

*****

幻想挿話
サラ・ティーズデイル

そのひとの声は清らかな水のごとく
石にそのしずくを落とす
それは遠く静かな森の奥
「静寂」はひとり遊ぶ

そのひとの思いは蓮のごとく
聖なる流れのたもとに咲く
聖堂のアーチのもとで
「静寂」は腰かけ夢を見る

そのひとの口づけは薔薇
宵闇迫るなか光る薔薇
ペルシャ庭園で一日を終える
「静寂」は眠りに落ちる

*****

「そのひと」って、つまり、「静寂」のことだったのか!という、擬人化の極致のような詩ですよね。

構成としては、聴こえる「声」、見えない「思い」、触れあう「口づけ」というように、人とのかかわりの諸側面を順に描いています。

自分にとっての大切な人を描くなら、こうなるだろうというような、愛と優しさがにじみ出ていますよね。

Her voice is like clear water
That drips upon a stone
そのひとの声は清らかな水のごとく
石にそのしずくを落とす

清らかな水のような声って、どんな声だろう。森の奥で石をしっとり濡らすような声。それが「静寂」の声なのだと。

Her thoughts are like the lotus
Abloom by sacred streams
そのひとの思いは蓮のごとく
聖なる流れのたもとに咲く

蓮は、清純や調和の象徴。静謐な思いって、心を満たすように、夜の静けさの中で沸き上がってくることがありますよね。温もりや感謝や安堵のような、決して派手ではないけれど、清らかな気持ち。

Her kisses are the roses
That glow while dusk is deep
そのひとの口づけは薔薇
宵闇迫るなか光る薔薇

薔薇のような口づけって!

宵闇に浮かぶ赤。そのひとの唇かもしれないし、薔薇なのかもしれない。

そうやって暮れていく中で深まる静けさ。

こうして読んでいるだけで、たとえ電車の中にいても、街角にいても、なんだか「静寂」に触れられるような気がしませんか。

*****

今回の訳のポイント

この詩は、「静寂」を人にたとえた擬人法の詩としても素晴らしいですが、「静寂」のイメージを喚起させるようなビジュアル面も巧みに描かれています。

In forests far and silent
それは遠く静かな森の奥

Beneath the temple arches
聖堂のアーチのもとで

In Persian garden closes
ペルシャ庭園で一日を終える

これらを思い浮かべるだけで、間違いなく「静寂」をイメージしてしまいますよね。

せわしない日々の中で、沈思黙考することを忘れてしまいそうになったら、こうしたイメージを頼りに、「静寂」を手繰り寄せてみるのも良いかもしれません。

 

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Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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