INTERPRETATION

第2回 大人のための目標の立て方

上谷覚志

忙しい人のためのビジネス英語道場

これまで20年近く英語を教えてきた中で、目標を決めずに勉強を始めて失敗する人が非常に多いことに驚くことが少なくありません。そのため、現在、担当している英語やり直し講座の初日では、英語の授業はほとんど行わず、英語の勉強のやり方と目標設定に時間を使います。特に大人が英語をやり直すためには、目標設定が必須です。

学生時代は試験という決められた目標がありました。大人になって英語をやり直す時に、目標設定が必要なんて誰も教えてくれなかったわけですし、ほとんどの人は漠然としたイメージ(夢)を目標と思って勉強を始めます。学生の時にやったみたいにとりあえず本を買って頑張ってみてもうまくいかないものです。

これまで何度となく英語の勉強をしてきたけど、うまくいかなかった方、ちょうどこれから始めようと思っている方、ちょっと立ち止まって計画を立ててみましょう。それほど難しいことではありません。ただ”学習目標”と”夢”とを区別していく必要があります。夢を計画に変えるためには、いわゆるSMART Goalを使ってみるといいでしょう。ご存知の方も多いと思いますが、SMARTとは目標を決めるうえで、下記の要素(S、M、A、R、T)をすべて盛り込んで目標を設定するやり方です。

Specific 具体的な

Measurable 数字化できる

Attainable 達成可能な

Relevant自分にとっての重要かどうか

Time-specific 期限が決まっている

という基準で目標を決めていきます。”リスニングを強化したい””話せるようになりたい”というのはSMART Goal的には夢であって、目標とは言えません。S、M、A、R、Tどれも満足していないからです。

最終目標としては、映画でも海外ドラマでも何でもわかるし、自分の言いたいことも全て言えるようになることかもしれませんが、そのレベルまで行くためには何十年もかけて英語と付き合っていかなければいけないと思います。それは長期的な夢として温めるとして、とりあえず自分に問いかけてみてください。

(1) 英語を使って何ができるようになりたいですか?(Specific)

(2) どの程度できるようになりたいですか?(Measurable)

(3) 英語ができるようになることがどれくらい自分にとって重要ですか? (Relevant)

(4) いつまでにできるようになりたいですか?(Time-specific)

(5) (1)~(4)は現実的にできると思いますか?(Attainable)

この問いかけ(S、M、A、R、T)のうち、足りない要素が増えれば、それだけ途中でやめてしまう可能性が高くなります。今勉強している人、これから始めようとしている人、伸び悩んでいる人、皆さんの今のやり方はS、M、A、R、Tすべて揃っていますか?

現在の英語のレベルに関係なく、このS、M、A、R、Tは必要です。先ほど良くない例で出した”リスニングを強化したい”とか”話せるようになりたい”という目標をどう変えればいいのでしょうか?

“リスニングを強化したい”からもう少し具体的にして、”ニュース英語や映画がわかるようになりたい”としたらどうでしょうか?少し具体的にはなりましたが、まだまだS(具体的)とA(達成可能性)の要素的に不適切です。目標にするためには、あるニュース番組のあるコーナーだけに絞るとか、映画も好きな映画一本に絞るのであれば、SとAの要素はOKです。

次にM(数値化)とT(期限)ですが、Mでは、同じニュース番組や映画を50回見るとか1日1時間必ず見るというように数字のノルマを決めるといいでしょう。Tでは、いつまでにこのニュース番組やこの映画を理解できるようになりたいのか(期限)を決めます。

R(関連性)は、案外一番難しい部分です。これは学習者のモチベーションに直結する部分で、そもそもこの勉強が自分にとって本当に必要なのか?やる価値はあるのか?という問いかけをすることになります。ひょっとしたら、今ニュースや映画を理解することよりも他にやるべきことがあるかもしれません。例えば、業務で必要なメールが書けるようになるとか、プレゼンができるようになるとかの方が重要であれば、この人の目標にはRの要素が欠落しているので、途中でやめてしまう可能性があります。

“話せるようになりたい”という場合も同様に見ていきましょう。

S (具体性):誰とどういう内容を話せるようになりたいのか(外国人の上司とコミュニケーションできるようになりたい、クライアントへのプレゼンを英語でできるようになりたい)

M (数値化):どの程度話せるようになりたいか(これまでは通訳を使っていたが、自分一人で上司に報告や顧客プレゼンができるようになる。用意したプレゼンだけではなく、今まで不安だった質疑応答もこなせるようになる。)これらは数値的な目標ではありませんが、上達したかどうかの基準としては十分です。

A(達成可能性):SとMがかなり具体的なので、T(期限)次第では達成可能でしょう。

R (関連性):この内容であれば自分の仕事に直結しているようなので、自分との関連性が高く、Rも問題ありません。

T(期限):現在のレベルによるが、SとMが具体的なので、1か月単位の目標設定も可能でしょう。

折角英語を勉強するなら、いろいろなことができた方がいいという気持ちはわかりますが、そこを目標にすると(そもそもそれは目標とは言わないが)伸びている感覚がつかめないまま、途中で諦めてしまいます。

小さな成功体験を積み重ねていく方が、確実に早く英語をものにできます。大雑把な勉強をしているのであれば、30分だけ時間をかけてSMARTやってみてください。

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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