INTERPRETATION

第12回 単語との接点

上谷覚志

忙しい人のためのビジネス英語道場

 前回は3秒ルールで覚えるべき単語の優先順位を付け、それに合わせて限られている時間を割り振るという話をしました。1回に多くの時間をかけて完璧に覚えるというよりも、できるだけその単語に触れる頻度を上げる方がその単語をより長く覚えていることができます。例えば、通訳のように仕事である単語をどうしても明日までに覚えなければいけないような場合はともかく、長期的に英語力の底上げをしていくことが目標であれば、1つの単語にあまり時間をかける必要はないと思います。知っているか、知っていたけど忘れていたか、全く知らなかったという3つのカテゴリーで単語をふるいにかけ、そのカテゴリーにあった覚え方、時間のかけ方を変えていくことが重要です。

 では、知らなかった単語(見たことのない単語)つまり3秒ルールでいうところも×のカテゴリーはどうすればいいのでしょうか?例えば、皆さんが初めて人と知り合う場合、どういう行動を取るかを考えてみれば、そのヒントがあると思います。まずはその人を一瞬観察してみる。そしてその人と会話をしながら、自分との接点を探して、会話の糸口をつかもうとするのではないでしょうか。実は知らない単語を覚えるというのも、初対面の人と知り合うプロセスと同じだと思います。

 一瞬観察するというのは、単語の場合、単語の形を見て品詞を判断してみるということです。単語には接尾語や接頭語というものがあり、例えばlyで終わっていたら副詞(例外はありますが)とか、un、disで始まっていたら”何かの反対”の意味を表すといったように単語を構成する要素から意味をイメージすることができます。例えば、unveil、displeaseという単語を知らなかった場合、いきなりunveil=明らかにする、公表する、displease=不快にする、いらいらさせると機械的に覚えるのではなく、un+veil、dis+pleaseと言葉を分解してみると記憶に残りやすくなります。veilというのは日本語でもベールという言葉で使われていますが、英語の動詞で使われる場合、”ベールで覆う”つまり隠すという意味で使われ、それがunという反対の意味にひっくり返されるので、”ベールを取る”つまり隠れていたものを明らかにするという意味だとわかります。displeaseもpleaseが”誰かを満足させる”という意味であると知っていれば、disでその意味の反対になるので、満足させない、つまり不快にさせるとかいらいらさせるという意味になります。通常、基本単語に関しては、ジーニアス等の辞書の見出し語の最初に語源や単語の構成の説明がありますので、接頭語や接尾語を知らなくても心配ありません。時間も限られているでしょうから、全ての単語を同じように分解する必要はもちろんありません。

 一瞬観察して、上記のようにうまく分解できれば、ほとんどの場合それで覚えられるはずです。しかしながら、全ての単語がこのようにうまく分解できるわけではありません。では、次にどうするのか。初対面の人と知り合いになる次のステップは、その人との接点を見つけて、会話の糸口をつかむでした。知らない単語の場合も、自分との接点を探してみましょう。単語との接点??と思うかもしれませんが、簡単に言うと、その知らない単語と自分の知っている単語との接点と考えてみてください。これまで普通に英語を勉強してきた方であれば、かなりの確率で自分の知っている単語をその新しい単語との接点を見るけることが可能です。接点を見つけるポイントはいくつかあります。

(1) 似た意味の単語は?

(2) 反対の意味の単語は?

(3) 派生語は?

(4) どういうシーンで使われる単語か?

(5) ざっくりどういう意味の単語か?

少し例を見てみましょう。ban(禁止する)という単語を覚えないといけないとしましょう。短い単語ですし、ban→禁止する→ban→禁止すると5回くらい唱えれば30分くらいは覚えていられるかもしれませんが、以前お話しした忘却曲線で考えるとおそらく明日には70~80%の確率で忘れているはずです。強引に覚えてしまうのではなく、特に初対面の単語は少しだけ手間をかけるようにしてください。banは禁止するという意味で覚えるのではなく、(1)のルール「似た意味の単語は?」を使って、”禁止する”という英語を自分が知っているかを考えてみてください。もしprevent(禁止する)という単語を知っていれば、banはpreventという(自分の知っている)単語と同じという接点があることがわかります。preventを知らない場合はどうするのか。英語の類語辞典を見てみると、stopと同じと出ています。banというのはstopという自分の知っている単語と同じ意味だと分かった時点で、急にこのbanという見知らぬ単語がこれまで知っていた友達のような親近感を覚えませんか?「なーんだ、banってstopと同じなんだ」と思えたら、ほぼ忘れることはありません。

 もしくは(2)のルール「反対の意味の単語は」を使うこともできます。禁止するの反対は「許可する」ですので、permit, approve, authorize, allowどれでもいいので自分が知っていれば、例えばbanというのは、allowの逆の意味という接点が見つかればこっちのもので、一気に自分との距離が近くなった気がするはずです。この親近感が知らない単語を覚える非常に重要なポイントです。自分の知っていることと何らかの形で結びつきができれば、忘れる可能性を大きく引き下げることができます。

 神経質な人はbanとstopでは使い方もニュアンスも違うのに、こんな覚え方でいいのかと思うかもしれません。確かにおっしゃる通り、使い方もニュアンスも違いますが、私は最初の段階ではこれでいいと考えます。特に初めて覚える場合、機械的に日本語を覚えてしまうよりも、他の英語でどういうのか(同じ意味または反対の意味から)を理解して、その単語のイメージをつかむ方が今後それを文字で見た時または聞いた時に柔軟に意味を捉えることができるからです。何度か目にするまたは耳にするうちに、自然とその使い方やニュアンスを感じ取り、自分のものにできると思います。単語集を使って単語を覚える段階では、あくまでもこういう単語を覚えないといけないという顔合わせみたいなもので、「詳しいことはまた今度会った時にでも」というスタンスでいいと思います。

 この単語との接点を探すプロセスで一番大事なのは、”自分が知っていることとの接点を探す”ということです。ですから、自分が知らない単語をさらに知らない単語と結びつけて覚えようとしてはいけません。先ほどの例でpreventを知らない人がpreventとbanが同じと覚えても意味がありません。余計な負荷がかかるだけで、逆に覚える妨げになる可能性すらあります。あくまでも自分が知っているレベルまで下りて、自分との接点を探すようにしてください。実際にこのプロセスを進めていく中で、この単語をいろいろな角度から調査することになりますので、その中でこの単語の持つニュアンスも実は感じ取っているのです。

 (1)(2)でも残念ながら接点が見つからなかった場合は、それ以降の(3)~(5)のルールで接点

を探してみてください。このどれかのルールで、ほとんどの単語は覚えられると思います。今回ご紹介したやり方は×の単語(知らない単語)の覚え方であって、○も△もこんなことをやっていると単語だけで勉強が終わってしまいますので、しっかりと絞り込みを行うことも重要です。

 今回の単語の覚え方は、おそらく皆さんがこれまで単語を覚えていたやり方とは違うかもしれませんし、ここまでやるとなるとかなり時間がかかるなぁという印象を持った方もいるかもしれません。単語との接点を探していくことも慣れればかなり早く行えるようになりますし、こうして見つけた接点がどんどん広がっていき、線となり面となることで、皆さんの単語力が加速度的に増えていくことを体感できると思いますので、ぜひこのやり方で3か月単語を覚えてみてください。

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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