INTERPRETATION

第17回 ビジネス英語は本当に難しいのか?

上谷覚志

忙しい人のためのビジネス英語道場

 あっという間に2月になってしまいましたが、勉強は計画通り進んでいますか?計画から大きく逸脱してしまったら、月変わりで仕切り直して、より現実的な計画に修正してみてください。

 さて、今回ビジネス英語は難しいのか?について考えてみたいと思います。皆さんにとっての”ビジネス英語”とは何でしょうか?ビジネスで使える英語を身につけたいという方が多い中、自分にとっての”ビジネス英語”とは何かを明確に答えられる人は案外少ないのではないでしょうか?

 文字通り”ビジネス”で使われる英語なのですが、皆さんにとっての”ビジネス”とはどういうものなのでしょうか?TOEICのような資格試験テキストと違って、市販のビジネス英語教材はさまざまな業界や会社の最大公約数的な要素が盛り込まれています。絞り込んでしまうと購買層も限定されるために本の売れ行きにも影響するからでしょう。誰にでも少しは関係する情報が入っているということは、今は要らない情報もかなりあるということです。

 我々が中学から英語を学び始め、高校入試、大学入試、そして資格試験と英語を勉強してきた中で、私はビジネス英語が最も学びやすい英語だと思います。高校入試、大学入試、資格試験どれも内容を決めるのは試験作成者で、我々はテストされる側でした。しかしビジネス英語では、誰かにテストされるわけでもなく、何が必要なのかは初めて自分で選ぶことができるのです。

 とはいっても、ビジネスにおいて、急に世間話になり、時事ネタや政治ネタが急に飛び出してくることも珍しくありません。そういうことを含めて考えるとほぼ全ての話題がビジネス英語の範疇に入ってしまいます。

 また厄介なのが、同じ言葉が業界や企業によって異なるという点です。例えば同じ売上高を表すのに、企業によってsales, net sales, revenueという言葉が使われたり、営業利益も同様に、operating income, operating profitという言葉が使われています。

 それに加えて、役職によっても使う英語は変わってきます。CEOが必要な英語とコールセンターのスタッフが必要な英語は違うでしょうし、営業が使う英語と経理・財務が使う英語も変わってくるでしょう。

 漠然とビジネス英語を何とかしようと始めてしまうと、総花的な市販テキストに圧倒され、果たして自分の英語が伸びているのかわからない状態が長く続くことになります。

通訳であれば、このような様々な変化球にも対応できるように、仕事の中でそして日々の勉強の中で少しずつ覚えていかなければならないため、いくら勉強しても、また知らないことが出てきて(それは一生続きますが)なかなか自分が伸びているのか実感することが難しいのですが、幸い、一般の方はそのような苦しい勉強をする必要はありません。

 これまでの英語学習の中で、初めて自分で”これは今の自分に要らない”と言える権利を思う存分行使すれば勉強がもっと意味のあるものになり、達成感も得られるようになるでしょう。海外ドラマや英語のニュースがあまりわからなくても、英字新聞を読むのに日本語の10倍かかっても気にする必要はないと思います。

 それよりも今の自分にとって海外ドラマや英語のニュースを理解できるようになる以上に緊急性のある自分に必要な英語があるはずです。例えばWeeklyの電話会議かもしれませんし、上司への英語での報告書作成かもしれません、または転職のための面接かもしれません。今英語を使っていない人であれば、これから3か月、半年の中で英語を使うビジネスシーンは何かを考えてみてください。もしそういうシーンがイメージできない人であれば、ビジネス英語を勉強する必要がないということになります。

 将来必要だからといっても、自分でそのシーンがイメージできないのであれば、目標自体を立てることもできませんし、具体的な勉強方法すら決められません。今の時代、英語が出来て当たり前という風潮のせいで、英語ができないと取り残される(確かにそれはそうですが)ような気持から勉強している人も少ないないですが、それだけのモチベーションでは残念ながら3か月もたたないうちに挫折してしまうでしょう。

 通訳の現場で、「どうやったら英語ができるようになりますか?」という質問をよくされます。以前は勉強方法をいくつか説明していたのですが、最近は「市販のビジネス英語のテキストで何となく勉強するのではなく、自分が今本当に必要な英語だけに絞り込むことです」と答えるようにしています。

 サイトラ、シャドーイング、音読、ディクテーション、文法、語彙練習等いろいろと勉強方法はありますが、自分のビジネス英語がわからずに、何となく英語の勉強を始めて成功するのは、元々英語の素地がある人だけです。英語が苦手な人が最大公約数的な勉強をしても決してものにはなりません。

 もしビジネス英語が難しいと感じている方がいるのであれば、まずは勉強をいったん止めて、自分のビジネス英語とは何かをしっかりと定義し、イメージすることをお勧めします。

Written by

記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

END