INTERPRETATION

第151回 慣用表現 loosen/tighten the purse stringsはどう訳す?

グリーン裕美

ビジネス翻訳・通訳で役立つ表現を学ぼう!

皆さん、こんにちは。10月の中旬というのに今週末はとっても暖かかったロンドンからお届けしています。

今回は2018年10月9日付のFinancial Timesで気になった表現を取り上げます。

この日の一面トップニュース見出しはIMF urges UK to lift public spending after a hard Brexitでした。

そして本文の冒頭は

Philip Hammond should loosen the purse strings on public spending and taxation to cushion the economic fallout in the event of a hard Brexit, the IMF has advised.

見出し、そして冒頭の1文、あなたならどう訳しますか?

まずIMFはInternational Monetary Fund(国際通貨基金)。通貨と為替の安定化を図ることを目的とする国連の専門機関ですが、財政難にある国(ギリシャなど)を救済したり、世界経済見通しを発表したり、経済の安定化のために加盟国に政策提言もします。現在のトップはクリスティーヌ・ラガルド専務知事(Managing Director Christine Lagarde)。元シンクロ代表選手のフランス人ですが、とても分かりやすい素敵な英語を話されます。

見出しでは「英国、EU強硬離脱の場合は政府の支出を増大するようIMF要請」と書かれています。

それをもう少し具体的に記述しているのが冒頭の1文です。

この文で興味深く感じたのはloosen the purse strings という表現です。日本語でも「財布のひもを緩める」というと「いつもより多く金を使う」という意味で、英語でも同じ意味で使われています。

Philip Hammondはイギリスの財務大臣(Chancellor of the Exchequer)。イギリスという国のお財布を握っている人です。

直訳すると

「ハモンド財務大臣は、財布のひもを緩めるようにIMFから助言された」となりますが、日本語の慣用表現のほうがレジスターが低く、国の財政政策を語る経済新聞の記事には不適切という印象。

ここでは「財政出動および減税」と訳したほうが適切かと思います。

→英国がEUから強硬離脱する場合、財政出動および減税をして景気低迷を緩和させるようIMF(国際通貨基金)からフィリップ財務相に提言があった。

という感じでしょうか。

また「a hard Brexit(強硬離脱)」は、ここでは「no deal(合意なしの離脱)」を指しています。

ところで逆の意味の「財布のひもを締める(支出を減らす)」も同様に

tighten the purse strings

が使われます。

hold the purse stringsだと「財布のひもを握る」→「財政を握る/収支の管理をする」

通訳の現場ではいつどんな慣用表現が出るか分からないので、とっさに適訳をするのが難しく、ふだんから少しずつストックをためておくといいと思います。原発言の言葉一つ一つにとらわれず、文脈や場面に適した訳がさっとつけられるといいですね。そのためには、私も毎日が修行です。

Brexitに関しては、今週ブリュッセルで開催されるEUサミットにて大きな動きがある(何らかの合意に至る)と予測されています。どんな合意がなされるのか、北アイルランド問題はどのように解決されるのか、今後の動きに注目です。

2018年10月14日

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記事を書いた人

グリーン裕美

結婚を機に1997年渡英して以来、フリーランス翻訳・通訳として活躍。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。

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