INTERPRETATION

第140回 language attritionとは

グリーン裕美

ビジネス翻訳・通訳で役立つ表現を学ぼう!

皆さん、こんにちは。今週は、曇り空のパリからお届けしています。

今回のトピックは、language attrition。ふだん取り上げる時事ニュースとも、役立つ表現とも違いますが、興味深い記事を読んだので紹介します。

その記事の見出しは “Can you lose your first language?” (参照記事)、「第1言語(母語)を失うことはあるのか?」ですが、まさにそれがlanguage attrition(母語喪失)ということになります。

どういう人が母語を忘れやすいかというと、まずは長い間海外に在住する人々(long-term migrants)が挙げられます。私も渡英して20年が経ちましたが、海外に住むと母語をすぐ忘れるということは学生時代に1年留学しただけでも気が付きました。

けれども、この記事によると、母語を喪失するのは海外在住者だけではなく第二外国語を学んでいる人にも起きるとのこと(It’s also not just long-term migrants who are affected, but to some extent anyone who picks up a second language)。ということは、本コラムをお読みの皆さまほぼ全員に当てはまるのではないでしょうか(ドキッ?!)

9歳くらいで海外に引っ越すと母語をすっかり忘れるという研究結果もあるようです(Studies on international adoptees have found that even nine-year-olds can almost completely forget their first language when they are removed from their country of birth)。

さすがに大人になってから海外に引っ越すと完全に母語を忘れることはなさそうですが、それでも例外があるようです(in adults, the first language is unlikely to disappear entirely except in extreme circumstances)。例えば、ドイツでナチスによる迫害を受けた後に国外へ移住した人は、それ以前に引っ越した人よりもドイツ語をすっかり忘れる傾向が高かったようです。母語とトラウマの関連が強いと母語を喪失しやすいとのこと。

また次の記述も興味深いです。

Mingling with other native speakers actually can make things worse, since there’s little incentive to stick to one language if you know that both will be understood. The result is often a linguistic hybrid.

これは例えば、私がイギリス在住の日本人ママや通訳・翻訳仲間とおしゃべりするときに日本語と英語をごちゃまぜにして話すことで互いの日本語の能力が落ちている、ということです(ドキッ?!)

海外暮らしをする家庭では、母語と居住国の言葉を混ぜて話しがちですが、そうするとどちらか一つ言語だけで通すのが難しくなります(this informal back-and-forth can make it harder for your brain to stay on a single linguistic track when required)。

じゃあどうしたらよいのかと悩んでしまいます。私はもうイギリスにいる日本人のお友達とは話さない方がいいのか、子供との会話はどちらかの言語に絞った方がいいのか……。

けれども、記事の最後の方にはこう書かれています。

Attrition is not a bad thing. It’s just a natural process(中略)native language attrition is reversible, at least in adults(母語喪失はそれほど悪いことではなく、自然なプロセスであり、少なくとも成人の場合また取り返すことが可能)(ふぅ!)

a trip home usually helps(帰国するとたいていは母語を取り戻すのに役立つ)とも書かれています。確かに、最近ではPodcastを含めネットを使うと海外からでもかなりの日本語情報が手に入りますが、やはりその国にいるのとは全然違います。私自身は、これまで年に一度くらいは一時帰国してきましたが、もうすぐ子育て一段落なので(涙)今後はもっと日本で過ごす時間を増やしたいと思います。

本コラムをお読みの方は、バイリンガルで子育てをしている方も多いのではないでしょうか。これも親としては悩みの種ですが、私はバイリンガル教育よりも学習能力、コミュニケーションを重要視してきました。またYou can’t learn unless you are happy(ハッピーでなければ学べない)を持論としています。ハッピーで学習能力があれば、後からでも言葉は学べるからです。

海外在住組には「日本語じゃないと答えない」というルールを作るママもいますが、それで親子のコミュニケーションが少なくなれば本末転倒。もちろん、ちゃんとバイリンガル教育に成功された方々もたくさんいて、それは素晴らしいと尊敬します。その中には現在会議通訳者として活躍されている方も何人もいます。

今、二人の息子は20歳と17歳。日本語はあまりできませんが、元気にすくすく成長しました。次男はいつか日本で働きたいと言っています。

以上、language attritionとは少しそれてしまいましたが、今回は母語喪失に関する記事を紹介しました。外国語の学習も大切ですが、母語を見直すきっかけとなれば幸いです。

2018年6月18日

Written by

記事を書いた人

グリーン裕美

結婚を機に1997年渡英して以来、フリーランス翻訳・通訳として活躍。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。

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