INTERPRETATION

Vol.13 レー・テー・ビンさん「ベトナムと日本の架け橋に」

ハイキャリア編集部

多言語通訳者・翻訳者インタビュー

【プロフィール】
レー・テー・ビンさん
Le the Binh 経歴:ハノイ貿易大学(ベトナム)在学中、文部省留学プログラムに参加、2年間早稲田大学にて学ぶ。同時に、この頃からベトナム語/日本語通訳・翻訳活動を始める。ハノイ貿易大学卒業後、研究活動に従事。2003年に再来日。現在は、一橋大学商学研究科に籍を置き、フリーランス通訳・翻訳者としても活躍中。

日本語に興味を持ったきっかけは?
大学では、英語・日本語・フランス語・ロシア語・中国語の中から1科目選択して履修することになっていました。どの言語も、たいていの外国語学校で勉強することが出来ましたが、日本語は当時珍しかったんです。ハノイ貿易大学が、日本語教育で有名だったこと、また、何となく一番難しそうな言語なので挑戦してみたいという理由で、日本語に決めました。
中学・高校ではロシア語を勉強しました。当時のベトナムの主流だったんです。でも、今の子供たちは、小学校から英語教育を受けています。時代も変わりました。

実際に、日本語を勉強してみていかがでしたか?
ひらがなだけでも覚えるのが大変で、実際、試習期間中に挫折して、英語クラスに移る人もたくさんいました。最初はなかなか日本語の文字に慣れず、ひらがなを覚えるのに、3週間ぐらいかかった記憶があります。
日本語の漢字には、ベトナム語と似ているものがあるんですよ。勉強していく中で、こういう言葉を見つけると嬉しくなりました。例えば、「注意」という言葉。これは、ベトナム語でも「チュウ イ」といいます。これは偶然ではなく、ベトナム語も、日本語と同様に漢語から来ているので、表記は違えど、言葉の意味や発音は似ています。このように中国語を介して、ベトナム語と日本語の共通点があるというのは興味深いです。

在学中に、来日されていらっしゃいますね。
文部省(現在の文部科学省)の留学プログラムに参加し、2年間早稲田大学で学びました。留学前には日本語学校に通い、大学でも日本人の先生に教わっていたので、ある程度生の日本語に触れているつもりでしたが、現実は甘くありませんでした。日本人の話している言葉が聞き取れないんです。スピードが速い!この時初めて、「あぁ、先生方はゆっくり話してくれていたんだなぁ。」ということに気づきました。それからは、ラジオを録音し、何度も繰り返して聞いて日本人の話すスピードに慣れるようにしました。今ではテレビやラジオも楽しめるようになりましたが、最初の1年間は大変でしたね。
日本に来て驚いたのは、外であまり子供を見かけないこと。ベトナムでは、至る所で子供が遊んでいますから。それから、気候。日本に来たのが9月だったとこもありますが、日本はもっと涼しいと聞いていたので、びっくりしました。通訳・翻訳の仕事をするようになったきっかけは?留学していた頃、友達が欲しくて、大学のベトナム語クラスに入ったんです(笑)。そこで知り合った友人と、language exchangeをするようになり、その友人を通じて通訳エージェントを紹介してもらいました。日本語とベトナム語が生かせればと思っていたので、私にとっても非常にラッキーでした。

初めてのお仕事は?
製造関係企業での通訳でした。ベトナムの研修生が、技術を学びに来ていたので、企業と彼らの間に入って通訳を担当しました。事前に資料を頂いたので、たっぷり予習をして臨みました。通訳という仕事は、言葉が出来るだけでは不十分、それよりも背景知識やその場での判断力が必要なんだと、ここで教えられた気がします。

印象に残ったお仕事は?
ベトナムで、経営学関係のワークショップ通訳を担当したことがあります。3ヶ国語のリレー通訳で、私はベトナム語・日本語間を担当しました。特に問題もなく進んでいたのですが、午後になって突然、英日通訳者が急用でいなくなってしまったんです!おそらく、よほどのことだったのだと思いますが、残されたのは私ひとり。当然の流れとして、私が英語も担当することになりましたが、これには参りました。でも、私がやらないと、ワークショップ自体がストップしてしまいます。日本語と同時並行で、英語も勉強していたので、何とか無事最後までやり遂げることが出来ました。しかし、通訳は本当に予想できないことの連続なので、常に臨機応変に対応しないといけませんね。

橋本元首相のベトナム訪問時にも、通訳を担当されたようですね。
当時、ベトナムと日本の経済関係は、投資や貿易分野などで交流が深まっており、新しい展開に入ろうとしていました。首相のスピーチと、プレスインタビューの際に通訳をしました。もちろん緊張やプレッシャーはありましたが、政府関係の方のスピーチやインタビューは、外交や経済一般的な話が多いので、内容が読めないということはありません。逆に、企業での通訳の方が、もっと細部に踏み込んだ話になってくるので、かえって難しいと感じることが多いです。それぞれ違った大変さがありますね。

ビンさんの得意分野は?
やはり、現在研究している経営・経済・金融ですね。他には、ITや建設などの技術関係。これからは、芸術関係も挑戦したいです。ベトナムの文化やアートは、これからもっと注目されるのではないかと思うんです。実際に、最近はこういったお仕事を頂くことも増えています。

日本における、ベトナム語通翻訳市場は?
おそらく、通訳だけを専門にやっている人はいないのではないかと思います。何かと並行して、通訳をやっている人が多いですね。ベトナム語は数が少ないこともあって、内容も専門的です。その分野での知識や単語力がないとやっていけません。ですので、皆それぞれ仕事を持ちながら、自分の強い分野の通訳をするケースが多いように思います。

1週間のスケジュールは?
週に2日ぐらい通翻訳の仕事が入っていて、それ以外の時間は研究をしています。毎日、大学の授業に出る必要はないので、基本的には自宅にいます。ストレス発散に、卓球やジョギングをします。映画もよく観に行きますよ。

今後もずっと日本に?
最終的にはベトナムに帰りますが、当面は日本にいると思います。これまでのように、研究と並行して通翻訳の仕事が出来ればいいですね。現在の研究テーマは国際金融なのですが、将来は、ベトナム・日本間、そして更に幅広くアジア全体の金融・経済を研究出来ればと思っています。

ベトナム語通訳者を目指す方へのメッセージをお願いします。
まずはベトナム語をマスターすること。そのためにも、最低2年はベトナムに住んでみてください。そして、3つぐらいは自分の得意分野を持っておくことが重要だと思います。その上で、臨機応変に対応出来る力をつけてください。

愛用の辞書。

【編集後記】

初めてのベトナム語インタビューでした!研究活動と通翻訳の両立を見事にはかっていらっしゃるビンさん、言葉の節々にプロとしての重みが感じられました。思わぬハプニングに見舞われた時は、とっさの判断がモノを言うのですね。でもそのためには、日頃から何にでも対応出来る力をつけることが必要なのだなぁ……。日々鍛錬!

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ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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