INTERPRETATION

Vol.16 高橋典子さん「フランスが私を育ててくれた」

ハイキャリア編集部

多言語通訳者・翻訳者インタビュー

【プロフィール】
高橋典子さん Noriko Takahashi
仏文学専攻博士課程修了後、1997年フランス留学。2005年現地にて、フランス現代文学博士号取得。フランス滞在中より、詩の翻訳を手がけ、フランス詩人と深い交流を持つ。2006年に帰国、現在は日仏文化交流のため、フリーランス通訳・翻訳者として精力的な活動を行っている。詩と絵の合作を手がけ、自らも詩を発表している。

訳詩

    沈んでゆく太陽は

    沈んでゆく太陽は
    もうあの太陽ではなく
    海は口を開けて食べ
    飲み込んで
    太陽は地球の胎内へ
    深くもぐり滲み込んで
    そしてまた
    生まれかわるんだ

    きつく締めつけていた
    雲の白装束が払われてゆく

    ダニエル・ルヴェルス

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なぜ、フランス語だったのでしょうか?
特別な理由はありません。たまたま、大学で第一外国語にフランス語を選んだのが全てのはじまりです。ドイツ語でもよかったのですが、何となくフランス語の方が素敵かしらと、単純にイメージだけで決めました。
もともと、言葉に強い関心があったわけではなく、高校までの英語の成績も普通でした。私がこうやってインタビューされているなんて、不思議ですね(笑)。
大学で勉強するうちに、フランス語の美しさに魅了され、自宅ではシャンソンを聴き、見る映画はジャン・コクトーと、少しずつフランスへの興味が大きくなっていきました。その結果、大学卒業後は、大好きなフランス詩を研究するため大学院に進んだんです。
当時、研究するなら現地に留学するのが当たり前だったので、私も指導教授に勧められるままに留学を決めました。実は、これが初めての海外! まぁちょっと行ってくるだけだし、と思って軽い気持ちで出発したら、結果的に8年もいついてしまったという……。人生、分からないものです(笑)。
初めての海外、不安はありませんでしたか?
出発前は、心配事もたくさんあったです。何しろ、初めて外国に行くわけですから。いざ着いてみたら、フランスってこんなに自分が心地よくいられる国なんだ! と一気に不安が吹っ飛びました。
全てが楽しかった、の一言です。人との出会いに恵まれ、どこへいっても親切にして頂いたように思います。アパートの管理人夫妻、隣に住むマダム、カフェで知り合った人達、詩人、画家、皆さんとても親切でした。毎日のようにカフェに通い、そこで知り合った仲間と、くだらない話をして飲み明かすんです。良く言えば、フランスの日常に触れた、ということでしょうか(笑)? カフェに行くと、かならず誰かがいるんですよ。それが楽しみで毎日覗くんです。私のフランス語はカフェで身につけた部分が大きいかもしれません。
たくさんの出会いの中で、一番大きかったのは詩人との交流でした。私の研究内容についてはもちろんのこと、私自身が書く詩や絵についてもアドバイスを受け、いろんな面で大きな影響を受けました。今の私があるのは、彼らのお陰といっても過言ではありません。
通訳・翻訳を始めたきっかけは?
詩人や画家の集まりに、ちょくちょく顔を出していたところ、日本関係のプロジェクトで私に声がかかるようになりました。自然な流れだったので、日本とフランスに関わることでお手伝いができるなら、と引き受けたのが始まりです。その後、いろんなところからお話を頂くようになり、気がついたら通訳・翻訳者という肩書きになっていました。不思議ですよね。フランス語の詩に日本語訳をつけることも多いのですが、研究分野であり、自分でも詩を書くことから、プラスになっていることはたくさんあると思います。
通訳と翻訳、どちらがお好きですか?
両方好きです。私の中では、どちらも「コミュニケーション」という言葉のうえで結びついており、特に二つを引き離して考えたことはありません。ビジネスの会議でも文化交流でも、言葉に関して私にできることがあれば、喜んでお手伝いさせて頂きたいと思っています。人と話すことが好きなので、翻訳だけというよりも、両方バランスよくできればいいですね。
一番印象に残っているエピソードは?
昨年1月の、ペンクラブ(日本ペンクラブhttp://www.japanpen.or.jp/ フランスペンクラブ http://www.penclub.fr/)での通訳です。フランスペンクラブ事務局長来日にあたり、会見当日通訳を行いました。詩人でもあるフランス人事務局長はとても陽気な方で、私もそのノリで会場に向かったところ、日本側の丁重なおもてなしにちょっとどぎまぎしてしまいました(笑)。なんと、会長であるあの井上ひさし氏が、食事会を開いてくださったんです。緊張で、食事どころではありませんでした。サインだけはしっかりと頂きましたが! 食事の際、あるフランス語がどうしても出てこず、「何だっけあれ」と思っていたところ、誰かがぽんと言ってくれたんです。「そうそれそれ!」と振り返ったら、井上氏でした。困ったなと思いましたが、結果的に井上氏の魅力が引き立ち、フランス側も大喜びでした。通訳としてはマイナスですが、その場の雰囲気が盛り上がったことはよかったかな、と……(笑)。
詩の翻訳の難しさは?
毎回、「この詩の美しさを、どうやって日本語で伝えようか」と悩みます。単なる言葉の置き換えでは、原語の持つリズムやイメージを無視することになり、結果的に詩を殺してしまいかねません。この詩が日本語で書かれたものだったら、と想定して翻訳しないといけないんです。私のモットーは、日本語で「表現しなおすこと」です。読み手である日本人に伝わらないと意味がありませんものね。
 また、詩人は自分の世界、そして自分の言葉を持っているので、それらを尊重した上で、翻訳する必要があります。一番の方法は、詩を書いた本人と話すことです。「この人がもし日本人だったら、どういう言葉を使うのか」が見えてきますから。時には、日本語に訳したものを、再度フランス語に訳しなおして、本人に見てもらうこともあります。皆さん非常に協力的ですし、「自分の詩にここまで興味を持ってくれてありがとう」と感謝されることもあります。
 同じ時間を生きている詩人の作品を翻訳する、というのは無上の喜びです。ビジネス文書と比べて、ものすごく時間がかかりますが、作品ができあがったときの感動で、全ての苦労は帳消しになります。
高橋さんの作品
ご自分でも詩をお書きになるとうかがいましたが。
日本にいた頃から書いていましたが、研究で忙しくなってからは時間がとれず遠のいていました。詩人との交流をきっかけに、今度はフランス語で詩を書き始めました。自分で書いてみるといろんな発見があって、翻訳にも非常に役に立っています。私のテーマは「愛」です。また、言葉や表現すること自体が「愛」だと思っています。フランスの雑誌に掲載されたこともありますが、きっと、外国人が使っているフランス語はおもしろい、と思われているんじゃないでしょうか(笑)?
ダニエル・ルヴェルス氏による絵と詩の合作
一週間のスケジュールは?
リズムがあるようでない感じです。時間が空いたときは、絵を描きます。詩と絵の合作にも取り組んでおり、友人と一緒に何作か発表しています。商業ベースではないので、純粋な創作の喜びを味わうことができ、楽しいです。最近は、貼り絵が中心です。ティッシュや半紙などをちぎって貼っているんですよ。楽しくて、いつも時間を忘れてしまいます。私は蛍光灯の光が苦手なので、全ての作業を太陽の光だけで行います。フランスにいた頃、太陽の光がたくさん入る部屋に住んでいたので、それ以来、自然の光でないと仕事ができないようです。太陽の光で物を見るって最高ですよ。残念ながら、今のアパートは窓が小さいんです。仕方なく、洗濯機の上で作業しています。ここが一番光が入るので(笑)。難点といえば、友人に誘われても昼間はなかなか出かけられないこと。もっとも、最近は「この時間は太陽が出ているから、典子は来ないだろう」と、向こうから察してくれるようになりましたが。
フランスペンクラブ副会長のダニエル・ルヴェルス氏による絵と詩の合作展覧会 Livre pauvre (リーヴル・ポーヴル)を日本で予定しています。今年3月ごろ、氏が来日するので、どこか都内で展覧会ができればと思っています。
今後のキャリアプランは?
通訳・翻訳の仕事をすることになったのも何かの縁ですから、このまま続けていければと思っています。主に、文化交流のお手伝いができればいいですね。私は、フランスで出会いに恵まれ、あの場所で育てられたので、今度は私が皆さんに出会いを提供できたらいいなと思っています。
一年ちょっと前に帰国したばかりなので、まだまだ先のことは分かりませんが、フランスに拠点を置いて活動できればベストです。
もし、この世界にいなかったら?
お嫁さん、かな(笑)? 難しいですね。私の場合、もしフランス語を選択せず、フランスにも行っていなかったらと、フランスに関すること全てを切り離して考えなければいけませんので。
フランス語を勉強している方へのアドバイスをお願いします。
方法は様々です。新聞、テレビ、ラジオ、学校など、その人がやりやすいようにやればいいと思います。ただ、一つお伝えしたいことがあります。言葉は、その国とそこに住む人々に結びついており、文化、社会、歴史全てに深く関わっています。言葉を学ぶということは、それら全てを吸収することだと思ってください。確かに、言葉ありきの部分はありますが、それだけを独立させないでほしいのです。
できれば現地に住んで、五感と第六感でフランスを感じてください。それは、何事にも変えられない体験になりますから。言葉は生きています。学校に通えば身につくものではありません。もちろん、それも一つの方法ですし、基本を学ぶことは誰にでも必要です。でも、最終的には「コミュニケーション」なんだということを忘れないで、学んでほしいです。結果は、自然についてきます。

編集後記
今回は、神楽坂の素敵なカフェでのインタビューとなりました。インタビュー終了後も、お茶を頂きながらたくさんお話を伺い、私の心はすっかりフランスへ……。高橋さんの温かいお人柄と、詩と絵の世界に触れ、夢のような1時間でした。

神楽坂/キイトス茶房→http://kiitosryo.blog46.fc2.com/

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