INTERPRETATION

第18回 チャンスは前ぶれなくやってくる。

原不二子

Training Global Communicators

 25日日曜日には、私の教え子の通訳である町田公代さんと一緒にディプロマットスクールで無料体験レッスンを開催しました。3連休最後の日にも関わらず、10数人もの方が集まってくれました。それぞれ、すでに通訳者として仕事をしている方が多く、日常に飽きたらず、自身の能力をさらに高める機会を求めてのことだと思いました。

 災害で家族を失い、その日以来すべてが変わってしまった環境下での再出発を強いられている多くの若い人たちのことを思いました。

 あの忌まわしい3月11日は中学の卒業式だった。小学校から10年近く一緒に過ごした仲間と別れ、家路を急ぐ。帰宅するなり、いつもとは違う大地震。電気は切れ、テレビからの情報ももちろんない。携帯で津波が来ていることを知るも、気づいたら黒い水の中。瓦礫をかき分けながら必死に泳いで避難所に辿りついたが、家族は誰もいない。気丈な彼女は、これからは英語を身につけ、国際機関で働き、世界中で自分より不幸な境遇に置かれた子どもたちの世話をしたい、と言う。

 先日、中国の大連で開催された世界経済フォーラムで通訳をさせていただいた際に、被災者代表として堂々と発表した日本人女子高校生の言葉です。この彼女のように、今回の大震災で人生の大転機を迎えた人は少なくないはずです。

 「チャンスというものは、知らないうちにやってくる。それをものにする用意が出来ている人にだけチャンスが来たことが分かるのよ」と、亡き母の言葉を思い出しました。この春は、多くの若い人たちがそれぞれのチャンスに気づき、ものにしたことを願って止みません。  

原 不二子

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原不二子

上智大学外国語学部国際関係史研究科博士課程修了。 祖父は「憲政の父」と呼ばれた尾崎行雄、母は「難民を助ける会」会長の相馬雪香。母の薫陶により幼い頃からバイリンガルで育ち、21歳の時MRAスイス大会で同時通訳デビュー。G7サミット、アフガニスタン復興会議、世界水フォーラムなど数多くの国際会議を担当。AIIC(国際会議通訳者協会)認定通訳者で、スイスで開催される世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)、ILO総会の通訳を務め、最近では、名古屋における生物多様性(COP/MOP)会議、APEC女性リーダー会議、アジア太平洋諸国参謀総長会議、ユニバーサル・デザイン(IAUD)会議、野村生涯教育センター国際フォーラム等の通訳を務めている。

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