INTERPRETATION

第69回 ことばで心がけていること

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

通訳という仕事柄、私は日ごろから「ことば」そのものへのアンテナを立てるように意識しています。アナウンサーの読み方や俳優さんの発声法、自分がどのような話し方をするかなど、なるべく客観的にとらえることが大事だと思っているからです。そこで今回は、私個人がどのような点を意識しているかお話しします。まずは「使うのを避けることば」です。

1.奴(やつ)
たとえば会話の中で「あれと同じやつをください」と言うことがありますよね。物体名が分からないときや、代名詞として使う「やつ」です。男性も女性も使っています。けれども私個人はどうしても「やつ=奴=人を卑しめて言う言い方」と思えてしまい、抵抗があるのです。ですので「やつ」の代わりの「もの」を使うようにしています。上記の文章であれば、「あれと同じもの」または「あれと同じ機種」となります。

2.ら抜き言葉
今でこそずいぶん市民権を得た「ら抜き言葉」ですが、まだまだ正式な日本語とは言えません。通訳者は相手に分かるような言葉を使うのが仕事ですので、ら抜き言葉は使わないようにしています。「見れる→見られる」「来れる→来られる」という具合です。

3.させていただく
近年、「~させていただく」が頻繁に使われるようになりました。けれどもこれは本来、「相手の許可を得たので実行する」という意味だそうです。ですので、極端な話、「ご説明させていただきます」「いや、説明は不要です」となれば、説明できないことになるのです。ここでは「ご説明いたします」「ご説明申し上げます」で十分です。ちなみに以前、ある企業に電話をした際、「お電話かわらさせていただきました、○○です」と名乗られて驚いたことがありました。

4.「~じゃないですか」
少し下火になった感もありますが、一時期「私って意外と人見知りするじゃないですか」という具合で頻繁に使われたことがあります。こちらとしては、「いえ、人見知りでいらっしゃるのは初めて聞いたのですが」とツッコミを入れてもおかしくない状況です。ここは「私って意外と人見知りするんですよ」で通じます。

5.小さい「っ」を避ける
以前あるアナウンサーがエッセイに記していたのが「小さい『っ』を避ける」というものでした。たとえば「やっぱり」は「やはり」に、「あった」を「ありました」にするというものです。よりプロらしく聞こえるとそのアナウンサーは述べていました。

6.えー、あー
通訳現場では1秒ぐらいの空白も非常に長く思えてしまいます。沈黙してしまうとあとの言葉が出ないのではないか、常に話していた方が良いのではという恐怖心にかられてしまうのです。けれども聞き手にしてみれば、聞いている内容を「消化する時間」も必要です。不安感から「あー、えー」を挿入しないよう、私は心がけています。

7.「てにをは」で突破
主語に「てにをは」の助詞をつけたら、なるべく文章の終わりまで言い直さずにするよう努めています。たとえば子どもたちに「夕食の手伝いをしてほしい」という状況だったとします。「夕食の」と言いかけたら「お手伝いをしてね」と続けます。「夕食が」であれば「始まるから、お手伝いしてね」となります。「夕食に」ならば「備えてお手伝い」、「夕食へ」ですと「向けてお手伝い」という具合になります。これはかなりのトレーニングになりますが、動詞や表現を増やすうえでとても効果があると思っています。

次は「私自身の改善点」です。

1.漢語を避ける
難しいながらもパッと言い切れる漢語を私はつい使ってしまいます。たとえば「迅速」「継続」「表明」などです。「素早く」「続ける」「言い表す」など、理解しやすい和語を使うのが目下の課題です。

2.「~という」の乱用
放送通訳のパフォーマンスをDVDで録音し、あとで見直してみると私が頻繁に使う表現があります。それが「~という」です。たとえば「~という問題を抱えており」「~というのが課題なのです」など、「という」を抜いても本来であれば十分通じるのです。

3.発声法
日本語シャドーイングをすることで美しい話し方を目指してはいるのですが、やはり緊張すると声もこわばっているのがわかります。「このニュースは難しいな」という時など、声が暗くなってしまうのも改善点です。

以上、喫緊の課題は3つですが(あ、これも「今いちばん取り組むべき課題」の方が良いですね)、これからも自分なりに客観的にパフォーマンスを見直し、より良くしていきたいと思っています。

(2012年5月7日)

【今週の一冊】

「1分で頭の中を片づける技術」鈴木進介 あさ出版 2011年

私は集中的に大量の本を読む時期と、パタッと読まない時期が定期的に訪れる。忙しくてなかなかページを開けなかったり、何となく気が進まなかったりなど、読まない理由は色々だ。そのような日々が続くとどうなるか?「悩みの時期」が到来するのである。小さなことにこだわったりオロオロしたりする時期だ。

おそらく書物から得られる「ことばのエネルギー」で、私は生きる勇気をもらっているのだと思う。つまり、本を読まず、吸収するものがなくなると、栄養不足になってしまうのだ。

そんな時に役立つのが、手軽に読めるビジネス書。読んで実践しようと思えるタイプの本だととても元気が出る。本書を選んだのもそうした理由からである。

「箇条書きに物事を書く」「企画書は1枚にまとめる」など、効率的に作業を進めるためのヒントがこの一冊には満載だ。中でも私が改めて「守ろう」と思ったのがメールチェックの頻度。著者の鈴木氏は、情報過多にならないためにも考える時間を多くとることが大切だと説く。ひっきりなしに届くメールに振り回されないよう、メールの確認は朝と夕方だけが良いと述べている。

以前私自身、メールは一日3回だけと決めたことがあったが、最近はズルズルとメールチェック→ネットで調べ物→気が付いたらネットサーフィンと時間を無駄遣いしている。貴重な時間を大事に使うためにも、メリハリのある生活を心がけ、「自分の頭で考える時間」を捻出したいと思う。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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