INTERPRETATION

第521回 好循環にするために

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

先週で年内の担当授業は終了。1月のお正月明けまでクラスはお休みです。いやはや、今年の秋学期は何だか忙しかった!春学期と比べて担当コマ数が多いのもそうなのですが、それ以外もあれこれでやたらと慌ただしかったのですね。

時間的余裕がなくなると、何かを切り詰めない限り物事を終わらせられなくなります。生きていくために必要なこと、つまり、食事や睡眠を削るわけにはいきませんので、削減する場合、「それ以外」へのエネルギーを費やさないことが求められるのですよね。

で、私の場合、秋から冬にかけて削ったこと。それは「読書時間」でした。

地元図書館や大学図書館から定期的にたくさん本を借りているのですが、いかんせん、読む時間が無い!「この仕事が一段落したら」「週末になったら読もう」と先延ばしをし続けました。けれども結局それ以外の仕事、たとえば授業準備や原稿執筆に追われてしまい、本にまで手を伸ばす余裕が無くなってしまったのです。

確かに「時間の捻出」にはなりました。私のように「いったん読み始めたら、キリの良い所まで読みたい。だから読書には数時間は欲しい」というタイプの場合、読書を始めてしまうと、本来の仕事まで手が回らなくなってしまうのです。

けれども、年末にかけて「異変」が起きました。

心がもろくなってしまったのです。

それまでの私は「読書」により、古の叡智を得たり、心の栄養を活字からもらったりしていました。その読書を抑えてしまったことで、メンタルが悲鳴をあげてしまったのですね。体も心も疲れやすくなり、効率がガタ落ちとなったのでした。

これでは悪循環です。こうなると、何とかして好循環を目指さなければ脱出できません。

「自分には読書が必要なのだ。それは、食べ物が体に栄養を与えてくれえるのと同様、心に滋養を施してもらえるものなのだ。」

そう痛感したのでした。

読書に限らず、生きていると様々な場面において、自分の本心で無いにも関わらず「悪循環」に陥ってしまうことがあります。その最中は本当に辛いですよね。ちょうど以下のCMのような感じです:
https://www.youtube.com/watch?v=bZthDNmYYmo

この動画からもわかるように、「悪循環」というのは、どこかで何らかの方法で断ち切ることが求められるのです。

みなさんも、どうか悪ループに振り回されることなく、どこかで「えいっ!」と立ち上がってみてください。悪循環を自覚したことこそが、好循環の始まりにつながると私は思っています。

年内の本コラムは本日が最後となります。今年もご愛読くださりありがとうございました!どうぞ良いお年をお迎えくださいね。年明けは1月4日火曜日のアップです。

(2021年12月28日)

【今週の一冊】

「1964年と2020年 くらべて楽しむ地図帳」松井秀郎著、山川出版社、2020年

「山川出版社」と聞いて真っ先に思い出すのが高校時代の世界史と日本史の教科書。私は世界史を大学入試科目に選択しました。当時の私は塾へは行かず、通信教育と文化放送でやっていた「大学受験ラジオ講座」をメインに学習を続けていたのでした。今のようにアプリや無料の学習動画など無い時代でしたので、世界史の教科書には自分なりに色を塗ったり、余白に書き込んだり、同じ国について「通史のように」勉強できるよう、「続きのページ番号」を記載したりしていました。

さて、今回ご紹介するのは山川出版社が出した地図に関する一冊。二つの時代を比べています。オールカラーで県別に分けられており、市区町村の合併や街並みの変化などを写真や地図から知ることができます。

私が暮らしている埼玉県を見てみると、1964年の市町村数は23市39町32村。一方、2020年になるとその数は40市22町1村となっています。村として唯一残っているのは「東秩父村」だけです。面積は3799㎢(1965年)に対して、3797㎢(2020年)。果たして2㎢はどこに消えたのか、知りたくなります。

ちなみに私は昔ながらの「○○郡△△町 大字□□小字▽▽」という表記にとても惹かれます。食品パッケージなどには地方の製造工場の住所が書かれていますが、近年は「○○市」が多いのですよね。時代の流れとは言え、古き良き記載へのノスタルジアが私にはあります。

そうした「昔懐かし」を味わえる一冊です。重要文化財や名水および歴史の道百選なども紹介されていますので、旅にも役立つバイブルと言えるでしょう。

Written by

記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

END