INTERPRETATION

第570回 ラジオ体操、やってみた

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

このコラムがアップされる週の金曜日は1月20日。暦では「大寒(だいかん)」です。1年の中で一番寒い日とされています。でも、道端を見るとすでに水仙が開花。春まであと少しと思うと嬉しくなりますよね。

さて、みなさんは体調管理をどのようになさっているでしょうか?実は私自身、昨年秋からしばらくイマイチの体調が続いていました。公私ともに多忙だったことが最大理由です。年齢を重ねるにつれて、若い頃のような踏ん張りもきかなくなり、やたらと疲れやすくなりました。

某著名トレーナーのように「気合いだ!気合いだ!」と言い聞かせてはみたものの、うまく行かず。マッサージにも定期的に行きました。施術直後はスッキリするも、すごろくのごとく、あっという間に「ふりだし」に戻ってしまいます。そうなると、さあ大変。心も脆くなりました。しかも晩秋になるにつれて日も短くなり、「暗い時間」と歩調を合わせるかのように「暗い思考」になっている自分がいました。半ば自己陶酔だったのかも。

昔であれば「こんなマイナス・マインドになるのは私らしくない。自己啓発書を読んで気合入れるぞ~!」と意気込んだものでした。疲れているのに鞭打って元気注入という感じです。でも、昨年秋はその気力すら湧きあがらず。そこでヤケになったのか(?)あえて逆にトライ。つまり「泥沼にとことん浸る」というものでした。

社会派テーマの映画やドキュメンタリーを観てはさらにズドーンとなり、選ぶ本も事件モノのノンフィクションばかり。「悲嘆」「絶望」といったキーワードから書籍を探しては読み漁りました。仕事や指導の場では極めて元気なのですが、一人になるとこんな感じだったのですね。家から一歩外に出れば元気ハツラツ。でもプライベートではこうした素材に触れては涙もろくなるという、我ながらわけのわからない状況でした。

心の中では「いったい私、何やってんだろう?」という声がこだまします。ウチとソトでこんなジェットコースターになっていたら、もっとくたびれてしまいますよね。でも、なぜか本能的にそのような感じで日々を送っていたのでした。それが数カ月続きました。

ただ、人生というのは同じ環境がずっと続くわけではありません。ある時、本当に「ふと」心の中で、やり尽くした感に到達したのです。確固たるきっかけがあったのでもなく、ただ何となく「次に進もう」という思いが湧きあがったのでした。

フシギですよね。自分でもなぜなのかはわかりません。ただ、こうした浮き沈みがあるのが人生なのだということだけは感じました。ジタバタしても仕方がない。気分が乗らないことは誰にでも起こりうるのです。自分がしんどい時というのは、つい周囲が幸せそうに見えて、余計焦ってしまいます。でも、それも順番なのです。誰もが照る日曇る日に直面するのです。

今、振り返ってみると、最大の要因は「運動不足」だったことが挙げられます。仕事が多忙の間、私は在宅でも机に向かいっぱなしで休憩をとることすら惜しんでいました。デスクで作業をするというのは、腕・肩・背中・首・腰・足が固定されます。これが長時間続くと血の巡りが悪くなり、ますます体が凝り固まってしまうのです。それでさらに疲労感が増していたのでした。

実は最近私はラジオ体操に凝っています。小学校のころはいい加減に動いていましたが、ここ数日、体操をするようになって肩こりが激減しました。在宅日は放送時間に合わせて仕事をしており、作業途中でもデスクを離れて体を動かします。テレビ体操で画面をよーく見ながら合わせて動かすと、結構な運動量です。今まで「小学生が夏休みにやるもの」と思っていたのですが、わずか10分で大いに体調が変わることを実感しています。

今年の目標は「健やかな心身」。そのことを大切にしながら公私ともに充実させていきたいと思っているところです。にしても、あ~長かった(笑)。

(2023年1月17日)

【今週の一冊】

「なぜ外国人女性は前髪を作らないのか」サンドラ・ヘフェリン著、中央公論新社、2021年

「外国人の女性キャスターって前髪ないんだね」

このように娘に言われてハッとした。確かにCNNでもBBCでも女性キャスターたちの多くが前髪を作らず、おでこを出している。たまたま?それとも習慣の違い?

気になったので日本のキャスターや街中などの女性たちに注目してみると、前髪のある人の多いこと!やはりお国柄なのだろう。

その理由を解き明かしてくれているのが今回ご紹介する本書。著者のサンドラさんはドイツ人と日本人のハーフで、多文化共生をテーマに執筆活動を続けている。

なぜ前髪がないのか?そのワケは簡単。前髪=幼く見えるから。欧米女性は「とにかく大人っぽく見せること」が大事とのこと。とてもわかりやすい。

本書にはほかにも「ドイツ語に『すっぴん』という言葉はない」「日焼けがステータス」「日本ほど結婚へのプレッシャーはないものの、パートナーがいないといけないプレッシャーは高い」など、興味深い内容がたくさん。

日本国内にいると、つい同調圧力(?)が気になってしまう。だからこそ、こうした多様な視点を持ちたい。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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