INTERPRETATION

第233回 惚れっぽさ

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

私は子どものころ、「熱しやすくて冷めやすい」と両親に言われていました。自分としてはそのような感覚はなかったのですが、おそらく遊びなどの「マイブーム」が変わりやすかったのでしょうね。

みなさんは松浦弥太郎さんというエッセイストをご存知ですか?今年春まで「暮しの手帖」の編集長を務めた方で、現在はクックパッドにお勤めです。松浦氏は10代後半に日本を後にし、アメリカなどを旅して見聞を広めました。そして帰国後は様々なお仕事を経て、書店を経営するようになったのです。松浦氏の文章はわかりやすく温かみがあり、人生をいかに丁寧に生きるかが伝わってきます。

先日読んだ氏の文章に、ご本人が他者の長所を発見し、好きになるというくだりがありました。自分以外はみな先生だからこそ、その人の良さは何だろうと常に考えるのだそうです。そしてその部分を好きになるというのです。

この考えは大切だと私は思います。なぜならば、私たちは生きていく上で他者とのかかわりを避けることができないからです。人との巡り合いも偶然のたまもの。だからこそ相手の良さを常に探し出すという「体質」を自分自身が持つことは、生きていく上で自分を向上させてくれると私は考えています。

「熱しやすくて冷めやすい」ということも、「冷めやすい」部分にさえ気を付ければ良いことなのかもしれません。惚れっぽさは相手への関心を高めさせ、そこから自分が何かを学び取ろうという意思につながります。

先週一週間、日経新聞夕刊にはバイオリニスト・大谷康子さんのインタビューが掲載されていました。大谷さんのお母様も「他人を褒める性善説の人だった」そうで、「私も子供の頃から周りの人をみんな好きになる性格が身についた」と大谷さんは語っています。

「自分をいかに他者に見せるか」「どうすればデキる人になれるか」という考えが目立つ今の時代です。だからこそ、他者の良い部分に目を向け、それを信じ、自分もより良き人間として成長していくことが求められると感じています。

(2015年10月26日)

【今週の一冊】

「いのちの言葉(3.11後の日本へ)」ダライ・ラマ14世著、篠山紀信写真、世界文化社、2011年

本との出会いは人との偶然のめぐりあわせと似ています。ダライ・ラマ14世のことはこれまでニュースや映像などで何度も見ていました。しかし、著作を読むのは私にとって初めてだったのです。本書を手にしたのも全くの偶然でした。

その日は外部講師が大学にいらっしゃる日でした。貴重なお話を伺えるチャンスとばかり、私は通常の授業を休みにして、学生たちとその先生のお話を伺いに会場へと向かいました。講義内容はアメリカ文化や宗教で、中でも私が興味を抱いたのがアメリカにおける仏教でした。

学びというのは、本で読んだ内容や講師の語る話から自分なりのきっかけを得ることだと思います。そしてそのキーワードを一つの入口として、自分でどんどん広げることだと私は考えます。私の場合「仏教」が出発点となりました。そこで図書館へ出向き、仏教関連の棚を眺めてみたのです。

今の時代、ネット書店も便利ですが、書店や図書館は関連本が網羅されています。大学図書館は学術書から新書に至るまで幅広い本がそろいますので、そのコーナーを歩くだけで多様な本と出会うチャンスがあります。今回ご紹介するダライ・ラマ14世の著作との巡り合いもそんなきっかけからでした。

本書は篠山紀信氏の美しい写真とともに、ダライ・ラマ14世のおことばが記されています。中でも私が印象的と感じたのは以下の文章です。

「一にも二にも行動です。」

「何もしないよりはずっといい」

「くよくよしすぎることは何の恩恵ももたらさない」

「毎朝起きるたびに『今日はもっといいことをしよう』と決意し、寝る前に一日を反省する。その積み重ねで、前向きな精神状態に変わっていくことができます。」

私たちは悩みが生じるとつい自分中心に考えてしまいます。けれども自己憐憫は時間の無駄と私は感じます。だからこそ、行動を起こして次につなげることが大事だと本書を通じて私は思ったのでした。

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柴原早苗

放送通訳者。獨協大学・順天堂大学非常勤講師。 上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。 ロンドンのBBCワールド勤務を経て現在はCNNj、CBSイブニングニュースなどで放送通訳者として活躍中。 NHK「世界へ発信!ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当。 ESAC(イーザック)英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。 通訳学校にて後進の指導にあたるほか、大学での英語学習アドバイザー経験も豊富。 著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)、「英検分野別ターゲット英検1級英作文問題」(旺文社、2014年:共著)。

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